6 レオナルド・グレンジャーの事情 ⑥

 チャーリーは顔面蒼白になりながら、自分が今まで犯してきた罪を告白した。


彼のまるで耳を疑うかのような話に、怒りで身体が震えてくる。


「そ、それでは……今までずっとお前が祖父母の手紙を隠していたのか? 預かるフリをして……? 祖母に恋し、娘であるルクレチア様を不幸な目に遭わせたカルディナ家と断絶させる為に……か?」


「は、はい……その通りでございます……」


チャーリーはもはや観念したのか、うなだれたまま返事をする。


「ふざけるな!! たかが執事の分際でお前は祖父母とカルディナ伯爵の手紙を隠し持っていたというわけか!? しかも勝手な返事まで出して……祖父母がルクレチア様の死に目に会えなかったのも、葬儀に行けなかったのも全てチャーリー! お前の責任だ!!」


「も、申し訳ございません!! わ、私は……どうかしていたのでございます……ずっと長年、奥様に恋するあまり……我を見失って……」


「黙れ!! それ以上、おぞましい言葉を口にするな!!」


「!」


チャーリーの肩が跳ねる。


「……この手紙は俺が預かる。そして祖父母に本当のことを全て告げる。それで祖父母は何処へ行ったのだ?」


憎悪の目を向けながら尋ねた。


「は、はい……港の広場で……花の展覧会が開催されているので……見学に行かれました……」


「それもお前の入れ知恵か?」


「そう……です……」


「レティシアがここへ来たことを知られない為にか? 万一、祖父母と会った場合……手紙が存在していたことを知ることになるかも知れないからな?」


俺の言葉に黙って頷くチャーリー。

本当になんておぞましい男なのだろう。こんな奴を今まで祖父母は信頼し続けていただなんて……!


「祖父母が戻り次第、お前の犯した罪を全て報告する。……せいぜい身辺整理でもしておくことだな。 逃げようなどと考えるなよ? 何処へ逃げても、グレンジャー家はお前を見つけ出せる力を持っているということを忘れるな?」


「……はい……承知致しました……」


まるで魂が抜けたかのようなチャーリー。恐らく、逃げ出す気力など無いだろう。

ふと前方を見ると、数人の使用人たちが何事かと集まっていた。


「チャーリーはとんでもない罪を犯した。もうあの男はこの屋敷の執事でも何でも無い。部屋に閉じ込め、逃げ出さないように見張りをしておいてくれ」


俺は彼らに近付くと命じ、その場を後にした。



その後、祖父母が帰宅するとチャーリーの犯した罪を全て報告した。

祖父は激怒し、祖母は激しく泣き崩れた。


祖父の逆鱗に触れたチャーリーは、今まで全ての財産を全て没収された上にクビにされた。無一文で放り出されてしまったので、すぐに露頭に迷うだろう。


本来なら、もっと重い罪を償わせるべきなのだろうが祖父母はそれをしなかった。

やはり、長年執事としてこの屋敷で働いていたこと。執事を信じて疑わなかった自分たちにも非があるからだと、祖父は語った。


そして、一番の理由は……。


「何ですって!? レティシアが……この屋敷を訪ねてきたの!?」


祖母が驚きの声をあげる。


「レオナルド、それは……本当の話なのか!?」


「はい、本当です。驚きました、まさか彼女がここに来るとは思ってもいませんでしたので。それで……お二人に謝罪したいことがあります」


「謝罪? 一体どういうことだ?」


祖母が首を傾げる。

そこで俺はレティシアに対して、酷い態度をとってしまったことを包み隠さず報告した。


「……そうだったのか……」


祖父がため息をつく。


「申し訳ございません。お二人の大切な孫娘だと言うのに、俺は彼女に冷たい態度を取ってしまいました。心より反省しております」


叱責されるのを覚悟の上で謝罪した。すると……。


「いいえ、……レオナルドが勘違いするのも無理もないわ。だって、真実は全て隠されていたのだから……」


祖母が悲しげに目を伏せる。


「……やはり、全ての原因はチャーリーのせいだ……全財産没収だけでは生ぬるかっただろうか……」


悔しげに唇を噛む祖父。


「ですが、チャーリーはもう高齢です。全財産没収の上、紹介状も書きませんでした。もうまともな生活を送れないのでは無いでしょうか?」


「うむ、そうだな……そう願いたいものだ」


頷く祖父。祖母は青ざめた顔で聞いている。やはり長年チャーリーが自分に横恋慕し、双方の手紙を隠されていたことにショックを受けているのだろう。


「レティシアが今何処のホテルに滞在しているか場所はもう聞いています。今から彼女の元へ行って謝罪してきたいのですが……お許しいただけないでしょうか?」


一刻も早く、レティシアに会って謝りたかった。


祖父母は少しの間、見つめ合い……やがて笑顔で頷いた。


「そうだな、まずはレオナルドが先に会いに行けばいい」


「ええ、そうね。私達は後日でいいわ。だってもうずっとこの島で暮らしていくと決めているのでしょう?」


「え? ええ、そうですが……?」


てっきり、祖父母も一緒に来るのでは無いかと思っていたのに……どうしたのだろう?


「ではすぐに会いに行ってあげてくれ。そうだな、ついでに食事にでも誘ってみたらどうだ?」


祖父が意外な提案をしてきた。だが、レティシアと2人で食事……悪くないかもしれない。


「分かりました、誘ってみることにします。ではすぐに行ってきます」


「ああ、行ってくるといい」


「レティシアによろしくね」


そして俺は2人に後押しされるように、彼女の元へ向かった。


突然会いに行って、レティシアに嫌がられたりしないだろうか……?


そんな一抹の不安を胸に抱きつつ――

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