13 イメルダの罪と末路 2
その日から私は毎日、父の仕事場であるカルディナ家についていくことにした。
本当に私は運が良かった。丁度学校が長期休暇中だったおかげで毎日フランクに会いに行くことが出来たのだから。
「こんにちは、フランク様」
いつものように庭にいるフランクに声をかけると、彼は困ったような表情を浮かべた。
「や、やあ……イメルダ。今日も来たんだね?」
うつむき加減で私に挨拶してくるフランク。フフフ……きっと照れているに違いない。何しろ私は校内でも美少女で有名なのだから。
「今日はこちらで何をしているのですか?」
もっと私に慣れてもらうために積極的に話しかけよう。
「うん、それが……」
そのとき――
「ワンワンワン!!」
大きな吠え声とともに、一匹の犬がこちらへ向かって駆けてきた。
「あ、ノクス!」
途端にフランクの顔に笑みが浮かぶ。その笑顔は一度も私に見せたことがないものだった。
私は犬が苦手だった。
さり気なく離れると、犬はフランクの前で止まって大きく尻尾を振る。
「よしよし、いい子だ」
笑顔で犬の頭を撫でるフランクに声を掛けた。
「あの……フランク様。その犬は……?」
「うん。最近飼い始めたんだよ」
「え! そうなんですか!?」
知らなかった。いままでずっと姿を見ていなかったのに。
「そうだっけ……? イメルダが見るのは初めてかな? でもすごくおとなしくていい子なんだよ? ノクスっていう名前なんだ」
笑顔でノクスの頭を撫でるフランク。そんなにおとなしいなら、私も頭を撫でるくらいならやってみよう。
「それじゃ、私も……」
ところが一歩近づいた途端……
「ウウゥ〜……」
途端にノクスは低い声で唸り始めた。まるで威嚇するようである。
「ひ……な、なんで……」
思わず恐怖で後ずさると、フランクが首をかしげた。
「あれ〜……おかしいな……いつもならこんなことしないのに……ごめんね、イメルダ。ノクスの様子が気になるから僕、もう行くよ。おいで、ノクス」
「え? フランク様? 行ってしまうの?」
「うん、ノクスを落ち着かせたいから。それじゃあね、イメルダ」
フランクは戸惑う私をその場に残して、犬を連れて去ってしまった。
「な、何よ……私なんかより犬のほうが大切だっていうの……?」
そしてこのときから、フランクに会うたびに彼はノクスと一緒に過ごすようになっていた。
そのため、私は彼に近づくことができなくなっていった。
「冗談じゃないわ……犬ごときに私とフランクの仲を邪魔されるなんて……」
なんとかしてあの犬を手懐けられないだろうか?
そこで私は父に犬が何処で普段飼育されているか場所を聞き出し、手懐ける作戦を実行することにした。
****
――ある日のこと
「フフフ……いたわ」
父に聞いていた通り中庭のテラスの近くにゲージがあり、そこにノクスがいた。
「犬なんて単純だから食べ物を与えれば懐くに決まってるわ」
ポケットからクッキーを取り出すと、ノクスのいるゲージに近づいた。すると途端にノクスは低い唸り声を上げて威嚇してくる。
「な、何よ……。本当に気に入らない犬ね……ほ、ほら! あんたのために勿体ないけどクッキーを持ってきてやったわよ。ありがたく食べなさい!」
クッキーを持ってノクスに更に近づいたとき……
「ワンワンワン!!」
あろうことか、さらに吠えかかってきた。
「きゃあ!!」
思わずクッキーを投げつけると、ノクスの鼻に当たってしまった。
「ウォン!!」
更に怒ったノクスは今にも噛みつきそうな勢いで吠えかかってくる。これで鎖で繋がれていなければ、今にも襲いかかってきそうだ。
「きゃあ!!」
思わず尻もちを着いたとき、たまたま落ちていた長い木の棒に気づいた。
「く……こいつめ……!」
棒を握りしめて立ち上がると私はノクスの背中に向けて棒を振り下ろした。
「キャン!」
すると今までにない悲鳴を上げるノクス。
「アハハハハハハ!! 随分いい声で吠えるじゃない!! 私にむかって吠えるなんていい度胸してるじゃないの!!」
私は二回、三回と棒をノクスに振り下ろす。その度に情けない声でキャンキャン吠える。
その時――
「あら? ノクスの鳴き声が聞こえるわ」
「どうかしたのかしら!」
メイドたちの声が聞こえてきた。
「チッ!」
私が殴りつけているのを見られる訳にはいかない。棒を放り投げると、私は一目散にその場を逃げ出した。
「フン! いい気味よ! 私にあんな態度を取るからよ!」
犬に仕返ししたことで、私はスッキリした気持で父と一緒に帰路についた。
「イメルダ、今日はフランク坊っちゃんと会えなかったのに機嫌が良いね?」
いつもビクビク私の顔色をうかがっている父が馬車の中で尋ねてきた。
「ええ、とっても良いことがあったの。明日が楽しみだわ」
それが大きな間違いだったことに私はまだ気づいていなかった。
なぜならその翌日、私はノクスに噛まれて身体に傷跡が残るほどの大怪我を負ってしまったからだ。
それでも成果はあった。
犬は処理され、私はフランクを縛り付けることに成功したのだった――
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