17ーb 残されたイザーク 3

「え? レティが中庭の門から外に出ていったの? それってパーティーに参加したくなくて、ひょっとして家に帰ったのじゃないかしら?」


フィオナが信じられない発言をする。


「何だって? 本気で言ってるのか? そんな馬鹿な話があるものか。誰だって高校生活最後の卒業パーティーに参加したくないなんて思うはずないだろう?」


「そうよ! もし参加したくないならそれはあなた達ふたりのせいよ!」


ヴィオラが俺の意見に同意し、セブランとフィオナを交互に睨みつける。


「ええ! どうして僕たちのせいになるんだい?」


「そうよ。いくらレティの親友だからといっていい加減なことを言わないでくれる?」


「だったら、なぜ同じ色の衣装を着ているのよ! まるでふたりはパートナー同士に見えるわよ」


「ああ、俺もそう思う。セブラン、お前はレティシアという婚約者がいるのに、何故フィオナと揃いの色のスーツを着ているんだよ!」


すると意外な言葉がフィオナから出てきた。


「それは私が以前にセブラン様に卒業パーティーでどんな色のスーツを着るか尋ねたからよ。ドレスを作る参考にしたかったからね。そうしたら薄水色のスーツだよと教えて貰ったの。素敵な色だと思ったから、私も真似てこのドレスを作ったのよ」


「何ですって? それではお揃いで作ったわけではなかったのね?」


ヴィオラが尋ねた


「うん、そうだよ。だから僕も少し驚いたんだ。まさかフィオナが僕のスーツと同じ色のドレスを着てくるとは思わなかったよ」


相変わらずのんびりした口調で話すセブラン。こいつ……自分が何をしたのか理解していないのか?


「でもそのせいで、レティを勘違いさせてしまったのかしら? だとしたら悪いことをしてしまったかもしれないわね」


口先だけのフィオナのふてぶてしい態度に俺は確信した。この女はとんでもなく性悪だということに。


「あ、あなたって言う人は……!」


ヴィオラは怒りで肩を震わす。すると、フィオナはセブランの背後にサッと隠れた。


「セブラン様、ヴィオラさん怖いわ」


「な、何ですって!」


ますます目を吊り上げるヴィオラ。


「よせ、ヴィオラ。相手にするだけ時間の無駄だ。そんなことよりもレティシアの行方を捜す方が先だ。行こう」


「ええ、そうね」


「何よ、相手にするだけ時間の無駄って」


俺の言葉遣いが気に入らなかったのか、フィオナが口を尖らせる。だが俺は無視して背を向けた時、セブランが声を掛けてきた。


「イザーク。もしレティが見つかったら、後で一緒に踊ろうって伝えておいてくれるかな?」


その言葉に、もう俺は我慢の限界だった。振り返ると、怒鳴りつけた。


「馬鹿野郎! レティシアはドレスを着ていなかったのにどうしてお前と踊れるんだよ!」


「え……?」


すると、初めてセブランは狼狽した表情を浮かべる。


「セブラン、お前は最低な婚約者だ」


吐き捨てるように言うと、俺はヴィオラに声を掛けた。


「……行くぞ。レティシアを捜しに行こう」


「ええ」



そして俺たちは足早にパーティー会場を後にした。




****



 俺とヴィオラは長い廊下を歩いていた。


「それにしても、一体レティは何処へ行ってしまったのかしら」


「さぁな。だが、少なくとも学園には残っていないだろう。何しろ門をくぐり抜けて外へ出て行ってしまったのだから」


それに、あの切羽詰まった様子も気になった。


「ひょっとして家に帰ったのかしら……」


「だったらいいけどな」


エントランスに行く為に理事長室の前を通った時、偶然その会話は耳に飛び込んできた。


『な、何ですって? 理事長! レティシア・カルディナが、大学への進学取り下げの書類を提出してきたのですか!? あの優秀な生徒が! 信じられません……』

 

それは学園長の声だった。


『ああ、そうだ。つい先程、郵送で届けられたのだ。進学はやめて、自立してひとりで生活をしたいからだという手紙が添えられていた。これは親御さんにも尋ねた方がいいかもしれないな』



な、何だって!?


「その話……本当ですか!!」


気づけば、俺はノックもせずに理事長室の扉を開けていた――

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