4-4 驚く人々
「レティシア、あの馬車に乗っていた人物に心当たりはあるかい?」
シオンさんが尋ねてきた。
「いいえ。遠目からだったので、よく分かりませんけど多分私の知らない人です」
「そうか……一体何者なのだろうな? あの人物も一緒にカルディナ家へ向かうようだし」
父の乗った馬車は私たちの後ろを走っている。
「父は今日『リーフ』に戻ってくるように私に言いました。もしかすると、あの男性と何か関係があるからなのかもしれません」
「そうだな。しかもふたりだけで馬車に乗っているということは……何か重要な話をしているのかもしれない」
シオンが考え込むように腕組みした。
「どのみち、カルディナ家に到着すれば相手が何者か判明するだろう。それよりも……大丈夫か? レティシア。顔色があまり良くないぞ? 体調でも悪いのか?」
レオナルドが心配そうに、私の額に手を当ててきた。
「い、いえ。平気です……少し、緊張しているだけですから」
何しろ、あの屋敷には…‥イメルダ夫人。そしてフィオナがいる。あのふたりのことだ。黙っていなくなった私に何か言ってくるに違いない。
「大丈夫だ。俺たちがついている。何も不安に思うことは無い、堂々としていればいいんだ」
レオナルドは額から手を外すと笑みを浮かべた。
「レオナルドの言うとおり。理不尽なことを言ってこようものなら俺たちが黙ってはいないよ」
シオンさんが何とも頼もしいことを言ってくれる。
「ありがとうございます。おふたりとも」
お礼の言葉を述べながら私は思った。
レオナルドとシオンさんがついてきてくれて、本当に良かった……。
****
馬車は走り続け、やがてカルディナ家の屋敷が見えてきた。私にとって見慣れた光景……けれど良い思い出の無い屋敷。
「あれが、カルディナ家の屋敷なのか?」
馬車の窓から外を眺めていたレオナルドが尋ねてきた。
「はい、そうです」
「そうか……グレンジャー家とは全く雰囲気が違うんだな」
ポツリと呟くレオナルド。確かにその通りかもしれない。グレンジャー家は白亜の美しい佇まいの屋敷。
けれどカルディナ家は何処か冷た印象を与るグレーの石造りの屋敷なのだから。
「はい、そうです」
私は憂鬱な気持ちで返事をすると、シオンが声をかけてきた。
「レティシア、後で庭を案内してもらえるかな? どんな植物を育てているか見せて欲しいんだ」
「はい、分かりました。いいですよ」
そこまで話したとき、馬車が止まった。とうとう……カルディナ家に到着したのだ。
レオナルドは馬車の扉を開けて、真っ先に降り立つと私に手を差し伸べてきた。
「レティシア。行こう」
「……はい」
その手を取ると、しっかりと握りしめられた。その力強さが私に勇気を与えてくれる。
意を決して馬車を降りると、扉の前で驚いた様子でこちらを見ているイメルダ夫人とフィオナの姿があった。
「あの……戻ってきまし……た……」
何と言えば分からずに、私は恐る恐る挨拶をした。
「そう……戻ったのね、レティシア。それよりも……」
イメルダ夫人が口を開きかけた時――
「レティ! どうしたの? そちらにいらっしゃる……その、男の人たちは……」
フィオナが私の側に立つレオナルドと、シオンさんを交互に見る。
すると――
「初めまして、レオナルドと申します。レティシアは俺にとって大切な女性なので、ここまでついてきました」
レオナルドが私の肩を抱き寄せてきた。
「え? レオナルド様?」
驚いてレオナルドを見上げると、その顔はどこか面白そうに笑みを浮かべている。
「「何ですって!?」」
イメルダ夫人とフィオナが同時に驚きの声を上げる。すると、今度は背後で父の声が聞こえた。
「イメルダ、それにフィオナ……わざわざレティシアの出迎えに来たのか?」
「お父様……!」
振り向くと父の隣に、ブロンドヘアの少しくたびれたスーツ姿の見慣れぬ男性が立っていた。
「ま、まさか…‥!! どうしてここに!?」
すると何故かイメルダ夫人が顔面蒼白になって、父の隣に立つ男性を指さした――
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