12 昨夜の言葉の意味
セブランとフィオナは今夜訪れる彼の両親の話で盛り上がっていた。
「嬉しいわ。今夜またセブラン様に会えるなんて。それに御両親とも初めてお会いするから何だか今から緊張してきてしまったわ」
もはや、フィオナはセブランに対する好意を隠そうともしない。私はそんな二人の様子を心を殺しながら窓の外を見つめていた。
やがて、馬車が屋敷に到着するとセブランが私に手を差し伸べてきた。
「レティ、降りるなら手を貸してあげるよ」
「そうね、その足では流石にひとりでは難しいわよね。下手に降りようとして怪我が悪化してもいけないし。 セブラン様、どうぞレティをお願いします」
何故かこの場を仕切るような物言いをするフィオナ。
「うん。さ、降りよう?」
「ええ、ありがとう。セブラン」
私は彼の手に掴まり馬車を降りると、タイミングよく屋敷の扉が開かれてフットマンとイメルダ夫人が現れた。
「お帰りなさい、フィオナ。それに……レティ」
「ただいま、お母様」
「ただいま、戻りました……」
どうにもイメルダ夫人の前では緊張してしまう。すると今度は夫人はセブランに声を掛けてきた。
「セブラン様、送って頂きありがとうございます。今夜、またお待ちしておりますね」
「はい、夫人」
「あ、そうだわ。レティ。お父様から貴女に贈り物があるのよ?」
イメルダ夫人が私に視線を移した。
「贈り物……ですか?」
「え? レティにだけ? 一体どんな贈り物なの?」
フィオナの言葉は何処か不満そうに聞こえる。すると、イメルダ夫人は背後に控えていたフットマンに声を掛けた。
「あれを持ってきて頂戴」
「はい、かしこまりました」
返事をしたフットマンは一度ドアの奥に姿を消し……すぐに現れた。しかも驚くことに車椅子を押している。
「え……? 車椅子……?」
あまりにも予想外の物をプレゼントされ、私は戸惑いしか無かった。
「お父様が足を怪我した貴女の為に、早急に用意してくださったのよ。感謝しないと」
「は、はい。そうですね……」
「良かったね、レティ。車椅子があれば、移動するのも楽になれるよ」
セブランが私に笑いかける。
「え、ええ……そうね……」
お父様の昨夜の言葉が脳裏に蘇ってくる。
『……少しだけ待っていてくれ。時間をくれるか?」
まさか、お父様が昨夜私に言った言葉は車椅子のことだったのだろうか……?
あのときはそんな風には思えなかったけれども。
だって、あれ程真剣な……どこか切羽詰まったような雰囲気だったのに?
「あら? どうしたのかしら? 嬉しくはないの?」
「そうね。あんまり嬉しそうに見えないわ。折角のお父様からのプレゼントなのに」
イメルダ夫人とフィオナが尋ねてくる。
「い、いえ。そんなことありません。とても嬉しいです。ただ、あまりにも驚いてしまっただけですから」
誤解されるような報告を父にされては困るので、私は必死で首を振った。
「そうだよね。レティはプレゼントが嬉しくて驚いたんだよね? それじゃ乗ってみようか? 手を貸してあげるよ」
セブランが優しく声を掛けてくれる。
「ええ。そうね」
彼の手を借りて、私は生まれてはじめて車椅子に乗ってみた。
「……すごく乗り心地がいい……」
椅子の部分も背もたれ部分も柔らかいクッションが丁度良かった。
「お父様に後でお礼を言いに行くわ」
誰に言うともなしに、私は言葉を口にした。
やはり、昨夜お父様が私に言った言葉はこのことだったのだろう。
何故ならこんなに乗り心地が良い車椅子を用意してくれたのだから。
このときの私は、そう信じて疑わなかった。
父の言った言葉の本当の意味を理解することもなく――
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