7 残された人々 フランク・カルディナ伯爵 2

「……はい、どうもありがとうございました。娘が帰宅したら確認してみます。それでは失礼いたします」


チン……


電話を切ると、思わず言葉が口から漏れた。


「……一体どういうことだ? レティシアが大学の入学届を……取り消した?」


何故か酷く胸騒ぎがする。


「レティシア……!」


いても立ってもいられず書斎を出ると、急ぎレティシアの部屋へと向かった。



「……」


娘の部屋の前で、少しの間中に入るのをためらった。娘といえど、年頃だ。それに不在中なのに勝手に部屋に入ってもいいものかどうか……


だが、確認しなければならない。自分でも何を確認したいのか分からなかったが、とにかく中に入ろう。


「すまない、レティシア。中へ入らせてもらうぞ」


ノブを回して扉を開けて部屋の中に足を踏み入れた。


「……」


すっかり日が落ちてしまった部屋の中は薄暗い。

手持ちの燭台で部屋のランプに明かりを灯して周り、改めてレティシアの部屋をグルリと見渡した。


「……特に変わった様子は見られないが……」


何気なく、部屋に置かれたクローゼットに目をやる。悪いとは思ったが、近付くと引き出しを引いてみた。


ガチャッ!


しかし、引き出しは開かない。


「鍵がかかっているのか……」


するとそこへ声が聞こえてきた。


「旦那様? どうされたのですか?」


振り向くと、執事のチャールズが扉の前に立っていた。


「ああ……チャールズか。少しな……」


「レティシア様のお部屋がどうかされましたか?」


「確かめたいことがあったのだが……クローゼットに鍵がかかっているのだ」


「鍵……ですか? 万一の為に私はレティシア様のお部屋のマスターキーを所有しておりますが……お使いになられますか?」


「何? そうなのか? 頼む、貸してくれ」


「かしこまりました。それでは今お持ちしますのでお待ち下さい」


チャールズは恭しく返事をすると、部屋を出ていった。


「レティシア……」


ポツリと呟いた時――


「あら? あなた。こんなところで何をしているの?」


「イメルダ……」


思わず眉をしかめたくなるのを堪えて振り向く。


「ここはレティシアの部屋じゃないの。一体どうしたというの?」


腕組みをしたままイメルダがレティの部屋に入ってくる。勝手に娘の部屋に入ってくるとは……苛立ちを抑える。


「少し、確認したいことが合ったから部屋を訪ねただけだ」


「ふ〜ん……ところであなた。最近レティシアに構い過ぎなんじゃないの?」


「別にいつもと同じだが?」


「いいえ、私の目をごまかそうとしてもそうはいかないわよ? とにかく、フィオナとレティシアを対等に扱って貰わないと。あなたにはそれだけの責任があるのよ?」


フィオナとレティシアを対等にだと? むしろフィオナの方を娘のレティシアより優先しているのが分からないのか?


その時――


「旦那様。マスターキーをお持ちしました」


チャールズが戻ってきた。


「マスターキー? そんなもの一体どうするの?」


「貸してくれ」


私はイメルダを無視すると鍵を預かり、一番大きなクローゼットの鍵を解錠した。


「……」


ゴクリと息を呑むと、ふたりの見ている前で私は大きくクローゼットの扉を開けた。


次の瞬間――


「何!」

「え……?」

「まぁ!なんてこと!」


三人同時に声を上げた。



レティシアのクローゼットの中身は……空になっていたのだ――




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