14 運命の卒業式と旅立ちの日
五月某日――
いつものように六時に起床した私はカーテンを開けた。
「良いお天気ね」
雲ひとつ無い青い空は新しい門出の第一歩を踏み出すには良い日だ。なぜなら今日は卒業式であり……この家を出る日でもあるからだ。
いつものように真っ白な制服に着替えて姿見で確認する。
「制服を着るのも……今日で終わりね」
そして私は部屋をグルリと見渡した。
まだ誰にも気づかれてはいないけれども、この部屋のクローゼットには衣類はおろか、アクセサリーの類もほとんど残されてはいない。
「クローゼットに鍵がついていて、本当に良かったわ……」
もし鍵がかかっていなければ誰かに見られて不審に思われてしまうかもしれない。
そして、私は朝食を取るためにダイニングルームへ向かった。
家族とは名ばかりの人たちと最後の食事をするために――
****
「いよいよ、今日が卒業ね。あっというまだったわね」
夫人が嬉しそうにフィオナに話しかけている。
「はい、お母様。今日の卒業記念パーティーがとても楽しみだわ」
そしてフィオナはチラリと私を見る。
「そうよね。今日のパーティーの為にドレスも新調したのだから楽しんできなさい」
私もドレスを買ってもらったが、パーティーに参加するつもりは全く無かった。なぜならパーティーではダンスが行われるが、セブランの相手は私では無くフィオナになるのは分かり切っていたから。
だから、私はあえて町の洋品店で既製品のドレスを買って貰った。
けれどこのドレスも既に売ってしまい、手元にはもう残っていない。
いつもならここで父も二人の会話に入ってくるのに、今朝に限っては何も言わない。その代わり、何故か私に時折視線を向けているのが気になった。
すると、夫人はその事に気づいたのか、父に声を掛けた。
「あなた、聞いているのですか?」
「ああ、聞いている。セブランの相手は当然レティシアなのだろう? 二人は婚約者同士なのだから」
「え?」
突然話を振られた私は驚いて顔を上げた。
「「!!」」
するとフィオナと夫人の顔色がサッと青ざめる様子が目に入った。
「どうなんだ? レティシア」
父は緑色のかかった青い瞳でじっと見つめてくる。
「え、ええ……そうでしょうね」
もとよりパーティーに参加するつもりは無かったが、曖昧に返事をする。
「そ、そうよね。レティシアはセブラン様の婚約者だから一緒に踊って当然よね?」
「きっと二人はお似合いだわ」
その後も夫人とフィオナの白々しい会話を聞きながら、私にとって最後の一家団らんの朝食は終わった――
****
「それでは失礼します」
朝食を終えた私は席を立つと、不意に父に呼び止められた。
「レティシア」
「はい?」
すると父はじっと私を見つめる。その様子をフィオナも夫人も不思議そうに見ている。
「あの……?」
首をかしげると、父が口を開いた。
「卒業……おめでとう」
「は、はい。ありがとうございます」
戸惑いながら、お礼を述べると私は足早にダイニングルームを後にした。
何故だろう? 今朝の父にはどこか違和感を覚える。
「ううん、きっと気のせいよ」
そう。私の今日の計画は完璧なはず。セブランに婚約を申し込まれた日から、ここを去る計画を立ててきたのだから……
――パタン
部屋の扉を閉じると、ライティングデスクの鍵を開けて引き出しから通帳を取り出し、カバンに入れた。
「今日で……この部屋ともお別れね……」
物心がついたときから住み慣れていた自分の部屋をグルリと見渡した。
「……今までお世話になりました」
ポツリと言葉を口にすると、私は部屋を後にした。
迎えにくるセブランを出迎えるために――
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