3 出迎えた人

 門扉を開けると、白い石畳が敷き詰められたまるで広場のような光景が目に飛び込んできた。


屋敷の周囲を囲むかのように植えられた木々は手入れが行き届いている。左右には円形の噴水が設置され、水を吹き上げていた。


そして三階建ての白亜の巨大な屋敷は、まるで『アネモネ』島の象徴的な建物にも思える。


「すごいわ……お母様の実家はとても裕福な伯爵家だと聞かされてはいたけれど……こんなに立派なお屋敷だったのね」


途端に不安な気持ちが込み上げてきた。

祖父母は私に一度も会ったことすら無いのに、私が母の娘だと信じてくれるだろうか?

念の為に手紙を持ってきたけれども、祖母は手紙を出したことを覚えていてくれているだろうか……?


「でも、悩んでいても仕方ないわね。とにかく、ここまで来たのだから訪ねましょう」


私は自分に言い聞かせると、再び自転車に乗って白亜の屋敷を目指した。



自転車を止めると、私は玄関へと向かった。


大扉には呼び鈴が取り付けられていた。私は息をゴクリと飲むと紐を掴んで数回引っ張り、少しの間待っていた。


やがて――


少し、きしんだ音をたてながらゆっくり扉が開かれてグレーのスーツ姿の初老の男性が現れた。


「こ、こんにちは。はじめまして」


「失礼ですが、どちら様でいらっしゃいますか? ここはグレンジャー伯爵家のお屋敷ですが」


首を傾げながら男性は尋ねてきた。そこで私は緊張しながら、挨拶をする。


「私は、グレンジャー伯爵夫妻の娘であるルクレチア・カルディナの娘、レティシアと申します。昨日、交易都市『リーフ』からこの島に参りました。そこで一目、おじい様とおばあ様にお会いしたくて訪ねてきました。突然の来訪、お許し下さい」


すると、男性は目を見開く。


「え……? あなたがルクレチア様の……?」


「はい、娘です」


「こ、これは驚きですね。申し訳ございません、少々お待ち下さい!」


男性は足早に去ってしまった。


「え?」


玄関にひとり残された私はどうすればよいのか分からず、立ち尽くしてしまった。

ひょっとすると疑われてしまっただろうか?


「でも仕方ないわね、連絡もせずに突然訪ねてしまったのだから」


言われた通り、私はここで待つことにした――




 誰もいないホールで待つこと、約五分。


こちらへ近づいてくる足音が聞こえ始めた。すると茶色いスーツ姿の男性がこちらへ向かって歩いてきた。

そして、互いの顔が見える距離まで近付いて来ると男性は足を止めてじっと私を見つめて来る。


その人物はブルーグレーの髪に、青い瞳。年齢は左程私と変わらないように見えた。

一体彼は何者なのだろう?


あまりにも無言で私を見つめて来るのは流石に気まずい。


「あ、あの……?」


声を掛けると、彼は初めて口を開いた。


「君が……祖父母の薄情な孫娘なのか?」


その瞳は、とても冷たいものだった――



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