10 ヴィオラからの手紙

 ヘレンさんから10枚の真っ白なコースターを預かり、商店街で今夜の夕食の食材を買って帰る頃には空がオレンジ色に染まりかけていた。


「つい、ヘレンさんと長話してしまったから遅くなってしまったわ」


自転車を倉庫にしまい、家に入ろうとした時に郵便受けに手紙が入っていることに気付いた。


「手紙……?」


ひっくり返してみると、差出人はヴィオラだった。


「まぁ……! ヴィオラからの手紙だわ!」


その場ですぐに開封しようと思い……とどまった。手紙を読むのは食後の楽しみにとっておこう。


ヴィオラからの手紙を手に、はやる気持ちを押さえながら家の扉を開けた。



****



19時半――


「フフフ……今日も美味しく料理が出来たわ……大分料理の腕も上がったみたい」


台所で食器の後片付けをしながら、ひとりで笑みが溢れる。今夜の夕食は白身魚のムニエルに、お店で買ってきたテーブルパン、それにサラダとスープ。


「そう言えばシオンさんが言ってたわね……レオナルド様に料理を作ってあげたことがあるかって」


ふと、レオナルドと祖父母の顔が脳裏に浮かぶ。


「もう少し料理の腕が上がったら、グレンジャー家の人たちに私の手料理を食べてもらいたいわ……」


そんな気持ちが沸々と湧いてくるのだった。



 片付けを終え、紅茶を淹れてリビングに移動した。

丸い食卓テーブルの上にはヴィオラからの手紙が乗っている。


「ヴィオラからの手紙……一体、どんなことが書いてあるのかしら」


椅子に座ると早速封筒を開封し、手紙を読み始めた。


『親愛なるレティ。元気にしている? 私はとっても元気よ。アネモネ島での生活は慣れたのかしら?』


「ヴィオラ……」


書き出しは彼女らしい元気なものだった。ヴィオラの文字を見ていると、懐かしい気持ちに浸りながら、私は手紙を読み始め……すぐに驚きの声を出してしまった。


「ええ!? イザークと旅行してきたことが……家族にばれてしまったの!?」


そこには、何故家族に知られてしまったのか経緯が書かれていた。

あの日……2人で一緒に船に乗って『リーフ』の港に到着した時、運悪くヴィオラの長兄が港に出向いていた。

そしてイザークと一緒に船を降りるところを、たまたま目撃されてしまったらしい。

嫁入り前の娘が男と旅をしてきたということで、2人はその場でそうとう怒られた。その挙げ句、イザークの両親がヴィオラの家に出向いて謝罪までする自体になってしまったと記されていた。


『イザークには本当に悪いことをしてしまったわ。でも、彼の両親はとても気さくな感じの人で最後は両親と中良さげに話す仲になっていたけどね』


「ヴィオラったら……」


別れ際にヴィオラが私に言った言葉が蘇ってくる。


『私、イザークと良い友達になれそうだわ』


でも、ひょっとするとこの先ヴィオラとイザークは友達以上の関係になれるかもしれない……ふと、そんな考えが脳裏をよぎった。

私としては、高校時代から2人はお似合に思えた。


「他には何が書いてあるのかしら……え?」


ある一文が目に飛び込んできた。


『そう言えば、私この間町でセブランを見かけたのよ』


「セブラン……」


ヴィオラの手紙には父からも知らされていない、彼のその後が記されていた――

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