13 憂鬱なお茶会

「さぁ、どうぞ。セブラン様、それにフィオナも」


応接室に到着すると、イメルダ夫人は自ら私達に紅茶を淹れてくれた。茶茶の良い香りが室内に漂う。


「いただきます」


セブランがカップを手に取り、口をつける様子を見た私も紅茶に手を伸ばした。


「……美味しい。夫人、本当に美味しい紅茶です。淹れるのがお上手なのですね」」


セブランが感心したようにイメルダ夫人を見る。

笑顔で話しかけるセブラン。確かに彼女が淹れてくれた紅茶はとても美味しかった。


「お母様は紅茶を入れるのが得意なのよ。ね?」


得意げにフィオナが話す。


「まぁね、一応貴族ではあるけれども色々と訳ありで……フィオナと二人きりで暮らしていたから、おかげさまで何でも得意になれたわね」


そして意味深な目でチラリと私を見る。それは遠回しに私とお母様のせいだと責められているようで、胸がズキリと痛む。


「そうだったのですか……ご苦労されたのですね」


けれど人のよいセブランは夫人の言葉の裏を理解していないようでしんみりと答える。


「セブラン様。私はお菓子作りが得意なの。焼きたてだから食べてみてくださいな。

レティシアも食べてね」


今度はフィオナが大皿に乗せられたクッキーを勧めて来た。皿には数種類のクッキーが乗っている。


「うわぁ……すごい。これをフィオナがひとりで作ったの?」


甘いお菓子に目が無いセブランが感心したようにフィオナを見つめる。


「ええ、そうなの。これは茶葉を練りこんだクッキーで、こっちはチョコチップが入っているのよ。このクッキーはココア味なの」


フィオナは丁寧にセブランに説明し、彼は身を乗り出すように聞いている。


「それじゃ、早速頂こうかな」


セブランはクッキーに手を伸ばすと口に入れた。


「……うん、すごく美味しいよ! 今まで食べたクッキーの中で一番美味しいね」


笑顔でフィオナを見つめるセブランの頬は少し赤く染まって見えた。……誰の目から見ても彼がフィオナに興味を持っているのは明らかだった。


「あら? どうしたの? レティシアも食べてみてよ」


フィオナが私を見て小首をかしげる。


「あ……そ、そうね。あまりにも上手に焼けているから、つい見惚れてしまったわ。それじゃ頂きます」


私は紅茶のクッキーに手を伸ばすと、早速口に入れてみた。ホロホロと口の中で崩れるクッキーの甘さと紅茶の香りがとてもよくあった。


「本当に美味しいわ。フィオナはお菓子作りの天才ね」


「フフフ…‥。ありがとう。ところでレティシアはお菓子作りは得意なの?」


「え……?」


その言葉にドキリとした。

私はこの家の伯爵令嬢であり、料理は全て使用人たちが用意する。だから当然料理どころかお菓子すら作ったことは無い。

私が得意なのは勉強と刺繍……それに父の仕事の補佐だった。


「あ、あの……私はお菓子は作ったことが無くて……」


「あら? そうだったの?」


「それは当然よ。何しろ、彼女はこの屋敷の令嬢なのだから。使用人がするようなことをするはずないでしょう?」


夫人は刺すような視線を向ける。セブランは気まずそうに私と夫人を見比べている。何か話そうと思っているのだろうが、きっと夫人に気を使って口を挟めないのだろう。


すると、フィオナが笑顔を向けた。


「だったら、私が今度クッキーの作り方を教えてあげるわ。上手に出来たら二人でセブラン様にプレゼントしましょう。ね、セブラン様」


「うん、そうだね。楽しみにしてるよ。レティ」


セブランは安堵したような表情を浮かべて私を見る。


「え、ええ……待っていてね。上手に出来るように教えてもらうから」


重苦しい気持ちを抱えながら私は無理に笑みを浮かべた――


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