12 二人の出迎え
セブランの馬車が屋敷の前に停車すると、彼が扉を開けてくれた。
「それじゃ降りようか?」
「ありがとう」
いつものようにセブランの手を借りて、馬車を降りるとフィオナが笑顔で駆け寄って来た。
「お帰りなさい! レティシア! セブラン様!」
「た、ただいま……フィオナ」
すると、遅れてイメルダ夫人がやって来た。
「お帰りなさい、レティシア。それにようこそ、我が家へ。セブラン様」
イメルダ夫人は『わが家へ』という時だけ、私に視線を送る。
「ただいま戻りました……」
「こんにちは、夫人、フィオナ」
私の帰宅の挨拶に引き続き、セブランが2人に挨拶をする。
「あ、あの……お2人は何故外にいたのですか?」
恐らく私達を待っていたのは一目瞭然だったけれども、念のために確認しておきたかった。すると――
「ええ、私が使用人たちにセブラン様の馬車は何時頃屋敷に到着するのか聞いて、お待ちしていたのよ」
イメルダ夫人が答えた。
「え……?」
その言葉に驚いた。てっきりフィオナの意思で二人は外で私達を待っていたと思っていたのに。
「私は厨房を借りて、趣味のクッキーを焼いていたのだけどお母様が呼びに来たのよ。もうすぐ2人が馬車に乗って帰って来るから外で待っていましょうって」
「え? フィオナはクッキーが焼けるの?」
男性ながら、甘いお菓子が好きなセブランがフィオナに尋ねた。
「はい、そうなんです。あの、良かったら私の手作りクッキーを召し上がっていかれませんか?」
そしてフィオナは魅力的な笑みを浮かべる。
「本当? レティ、少しお邪魔していってもいいかな?」
セブランが何故か私に尋ねて来た。
「ええ、勿論よ」
うなずくと、イメルダ夫人が首を傾げた。
「セブラン様、別にレティシアの許可など取る必要はないじゃありませんか。今回お誘いしたのは私達なのですから」
「え? でも……」
困った様子でセブランが私を見る。ここはイメルダ夫人の顔を立ててあげなければ……
「そうね。セブラン、私に尋ねなくても大丈夫よ。貴方は家族のようなものなのだから遠慮はしないで?」
「ええ、その通りですわ。セブラン様。それでは私達と一緒に応接室へ参りましょう?」
「早く行きましょう。皆で私のお手製クッキーを頂きましょうよ」
フィオナはともかく、イメルダ夫人は完全に私の存在を無視してセブランに話しかけている。三人は連れ立って応接室に向かって歩き出す様を、私は成すすべもなく立ち尽くしているしか無かった。
すると、突然フィオナが振り返った。
「あら? どうしたの レティシア。一緒にクッキーを食べに行きましょうよ」
「え? あ、そ、そうね。行くわ」
私は声を掛けてくれたフィオナに心の中で感謝しながら、三人の後に続いた。
けれど……このことがかえって裏目に出てしまうことになるとは……そのときの私は思いもしていなかった――
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