10 私の友人
私とセブランは違うクラスだった。
私はAクラスで、セブランはBクラスに所属している。いつものようにふたりで教室前まで来ると、セブランが声を掛けてきた。
「それじゃ、レティ。また放課後一緒に帰ろう」
放課後一緒に家に……
つまり、それは再びセブランとフィオナが顔を合わせるということだ。フィオナが明らかにセブランに興味を持っているのは昨夜の会話から分っている。そしてセブランも美しいフィオナに関心を寄せているのが先程の態度で気付いてしまった。
私とは違って、美しいフィオナに……
「レティ? どうかしたの? 何だか元気がないようだけど……」
返事をしなかった私を心配してか、セブランが尋ねてくる。
「いいえ、大丈夫。何でもないわ。それではいつものようにまた送ってくれる?」
「勿論だよ、またね」
笑顔でセブランは返事をすると、私達はその場で別れた。
「おはよう、レティ。今朝もセブランと一緒に登校してきたのね」
教室へ入ると、隣の席に座る友人のヴィオラが声を掛けてきた。
「ええ、そうよ。いつも通りにね」
着席すると、ヴィオラは椅子を寄せてきた。
「二人はまだ婚約しないの? あんなにいつも一緒にいるのに。大体このクラスの半分近くは皆婚約者がいるわよ?」
「そう言うヴィオラだって婚約者がまだいないじゃない。美人なのに」
友人のヴィオラはキャラメルブロンドの巻き毛に、青い瞳が美しい持ち主だった。
「私は男の子になんか興味ないもの。結婚なんかしなくていいわ。だって面倒くさいじゃない。でも、レティ。そういう貴女だって美人よ」
「……そんなこと無いわよ」
フィオナの姿を思い出した。彼女の髪は美しいホワイトブロンドの髪。そして吸い込まれそうな青い瞳。
けれど、私は違う。ブルーグレーのストレートな髪だ。唯一特徴があるとすれば、紫の瞳くらいだろうか?
「どうしたの? レティ。今朝は何だか元気が無いわね。もしかしてまた家で何かあったの?」
その言葉にドキリとした。彼女にだけは家庭の事情を少しだけ説明していたからだ。
どうしよう? 昨夜腹違いの妹と、彼女の母親が現れたことを相談してみようか?
「あ、あのね……」
「また父親に冷たい態度を取られたのね?」
「え?」
戸惑って瞬きすると、ヴィオラはため息をついた。
「それにしても貴女のお父さんはあまりにも冷たいわよ。レティは学校の勉強の他に領地管理の仕事の補佐だって一生懸命頑張っているのに感謝の言葉も無いわけでしょう」
「ヴィオラ……」
私が気に掛けていたのはセブランとフィオナのことだったのだけど、ここは黙っていることにした。
「ええ、もう少し……出来れば温かい言葉を掛けて貰いたいなって思ったのよ」
そう、フィオナに声を掛けるように……
「レティのお父さんをあまり悪く言いたくはないけど、貴女がお嫁にいったら仕事の手伝いをしてくれる人が減るのよ? そうなると自分が困るってことを自覚して、もっと大切にしてもらいたいわよね」
「……ありがとう。ヴィオラ」
そのとき、不意に背後から声を掛けられた。
「レティシア」
振り向くと、そこに立っていたのはイザーク・ベイリーだった。
「あ、おはよう。イザーク」
「おはようじゃない。今朝は授業前に美化委員の活動があっただろう?」
「あ! いけない! そうだったわ!」
私とイザークは同じ美会員に所属していた。
「先に行っているぞ」
イザークはそれだけ告げると教室を出て行く。私は慌てて席を立つと、ヴィオラに声を掛けた。
「ごめんさない。ヴィオラ。私、ちょっと行ってくるわね」
「ええ。行ってらっしゃい」
こうして私はヴィオラに見送られながら、急いでイザークの後を追った。
****
「待って! イザーク!」
すると、前方を歩いていたイザークが足を止めた。
「レティシア。今朝は一体どうしたんだ? 委員会の仕事を忘れるなんていつもの君らしくないじゃないか」
「……ごめんなさい。ちょっと、色々あって‥…忘れてしまったの」
「ふ~ん。そうか。でもだからと言って自分の役割を忘れるのはどうかと思うな」
「ごめんなさい……」
イザークは気難しいところがあるから、少し苦手だ。
「とにかく、あまり時間が無いから早く用具室に道具を取りに行こう」
「ええ、分かったわ」
そして私とイザークは急ぎ足で用具室へ向かった――
****
二人で花壇の雑草を取り除き、水やりをしたところで授業開始十分前の予鈴が鳴り響いた。
「……よし、こんなものだろう。そろそろ終わろう」
園芸用エプロンを外しながらイザークが声を掛けてきた。
「ええ、分かったわ」
「いいか? 今週は美化週間だから、明日の昼休みも活動があることを忘れるなよ?」
「はい。……ごめんなさい」
「別に謝ることは無いさ。それじゃ俺は用具を片付けているから、レティシアは先に教室に戻っていろよ」
「え?……いいの?」
「ああ。早く行けよ」
イザークは私を見ることもなく、用具を片付け始めた。
「ありがとう、ならお言葉に甘えて先に行くわね」
私は急ぎ足で教室へ向かった。
今日の放課後のことを考え、いやな予感を抱きながら……
そして、私の予感は的中することになるのだった――
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