9 残された人々 フランク・カルディナ伯爵 4
「あなたったら……どうしてあんな態度を取るの? 折角セブラン様がフィオナを送ってくれたというのに。せめてお茶の一杯でもあがって飲んでいただいても良かったのじゃないのかしら?」
「そうですよ。お父様。あまりにも冷たいわ」
イメルダとフィオナの言葉に怒りが込み上げてくる。学園からいなくなってしまったレティシアの捜索もせずに、あげくに二人だけで帰ってきておきながら……!
「ふたりとも……レティシアのことが心配じゃないのか?」
無駄とは思いつつ、尋ねた。
「お父様、でもレティシアは自分の意志でいなくなったのですよ?」
「心配と言われてもねぇ……もうあの娘だって成人年齢に達しているわけだし、そのうち帰ってくるのじゃないかしら?」
「自分の意志でいなくなった? そのうち帰ってくるだと? イメルダ……お前はレティシアの部屋の状況を見たのに、まだそのようなことを言うのか!?」
「お、お父様……」
フィオナが青ざめた顔で私を見る。この娘はようやく私の怒りに気付いたのだろうかか?
「そ、そんなこと言われたってどうしろっていうのよ。大体、勝手にいなくなったのはあの娘じゃないの! 私達に八つ当たりするのはやめて頂戴! 何よ……たかだか家出くらいで大げさに騒いで!」
たかだか家出……? もうこの言葉に我慢できなかった。
「私の娘がいなくなったのだぞ! 心配するのは当然のことだ!」
「「!!」」
とうとう私は怒りにまかせて怒鳴りつけた。
「お、お父様……」
フィオナは目に涙を浮かべて私を見る。だが、もはやこの娘に「お父様」など呼ばれたくもない。
「あなた! こんなにフィオナを泣かせて……! 謝って下さい!」
イメルダは図々しくも謝罪を要求してくる。……一体どの口がそのような台詞言えるのだ? むしろ謝るべきはお前たちの方だろう!?
私は二人に侮蔑の眼差しを向けると、背を向けて屋敷の中へ入っていた。その後ろをチャールズがついてくる。
「あなた! よくもそんな態度を取れるわね! 覚えていなさいよ!」
エントランスにイメルダの声が響き渡るも、振り返ることもなく――
「旦那様、これからどうされますか?」
廊下を歩いていると、チャールズが尋ねてきた。
「まずはレティシアの行方を捜し出す。そのうえで、もし無事に過ごしているなら……そのまま暫く様子を見るつもりだ」
「……連れ戻されないのですか?」
「レティシアが家出をしたのは、この家が嫌だったからだ。今の状況のまま無理に連れ戻しても、あの娘のためにはならないだろう。……勉強するのが好きだったはずなのに大学進学を辞めるとは……相当の覚悟があったに違いない」
一体どんな思いでこの家を出ていったのか……その時のレティシアの気持ちを考えると、胸が締め付けられそうになる。
「旦那様……」
「まず連れ戻すにしても、レティシアが安心して暮らせる環境を作ってからだ。とにかく今は一刻も早く行方を捜して、安否確認をしなければならない」
「そうですね。それでどうやって捜し出すおつもりですか?」
「まずはレティシアの部屋に手がかりが無いか探してみよう」
「お手伝いいたします」
「……ありがとう」
私とチャールズは再びレティシアの部屋へと足を向けた――
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