10 残された人々 フランク・カルディナ伯爵 5

「……レティシア。すまないが、部屋の中を探させてもらうぞ」


娘に語りかけるように部屋の扉を開け、チャールズと共に部屋の中に足を踏み入れた。


「よし、チャールズ。二人で手分けして何か手がかりがないか探そう」


情けないことに、私は娘が何を思い……考えていたのか分からなかった。そのために室内を探すしか無かったのだ。


「はい、旦那様」


こうして俺とチャールズは手がかりがないか、部屋の中を探し始めた――




レティシアの部屋を捜索を始め、三時間が経過した。



「……駄目だ。何一つ手がかりが見つからない」


「ええ。そのようですね……」


ため息を付きながらチャールズが返事をする。


レティシア……そんなにこの家を出たかったのか? この私に手がかりを残したくないほどに……?


壁に掛けてある時計をみると、時刻はそろそろ0時を迎えようとしている。


「……旦那様。お気持ちは分かりますが……レティシア様はとてもしっかりした方です。きっと今頃はどこかでお休みになられているかと思います。どうか今夜はもうおやすみ下さい」


チャールズが心配そうに声を掛けてくる。


「だが、レティシアが行方不明だと言うのに……休んでなどいられない……」


「ですが、もうこんな時間です。仮に行き先が分かったとしても、汽車も蒸気船も動いていないのですよ? それに……ここ最近、ずっとお忙しくしておられたではありませんか。もし今倒れられてしまったら、それこそレティシア様を捜せなくなってしまいます!」


「チャールズ……」


真剣な目で私を見るチャールズ。

彼は私が子供の頃から、この家で執事を務めていた。そして……私の置かれている事情を知る数少ない人物でもあった。


「……分かった。とりあえず……今夜は休むことにしよう。明日の朝、またレティシアの手がかりを探すことにしよう」


「はい、是非そうなさってください」


「ああ……」


私は頷くと、レティシアの部屋を後にした――





****



 自室に戻った私は本棚の奥から写真立てを取り出した。


「ルクレチア……」


写真立てには私の妻……まだ、心が病んでしまう前の若かりし頃の彼女が優しい笑みを浮かべて写っている。


本来であれば、部屋に出して飾っておきたかったがイメルダの手前、出来なかった。

以前彼女の写真を飾っていることを知ったイメルダが怒って写真を破いてしまったことがあったからだ。


それ以来、私はルクレチアの写真をイメルダの目に触れないように隠さざるを得なくなってしまったのだった。


「ルクレチア……すまない。私が不甲斐ないばかりに……あの娘はここを出て行ってしまったよ……後少しでイメルダと、あの娘を追い出す手はずが整うところだったのに……」


後悔してもしきれない。

あの親子を追い出せば、私を阻む者は全ていなくなるはずだったのに……まさかそれより前にレティシアが自分の前からいなくなってしまうとは思いもしなかった。




そう。

私の人生が狂ってしまったのは……三十年前のあの日が全ての始まりだったのだ――


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