23 別の理由
18時過ぎに馬車はグレンジャー家に到着した。
「レティ、もう風邪の具合は良くなったのか?」
皆で屋敷に入った途端、祖父が出迎えて抱きしめてきた。
「はい、ご心配おかけしました」
「あなた、おやめ下さい。まだレティは病み上がりなのですよ」
祖母に窘められ、祖父は慌てたように私から離れた。
「すまん、レティ。まだ体調が万全ではないのに、抱きしめてしまって」
「いいえ、大丈夫ですから」
申し訳無さそうに謝ってくる祖父に笑顔で返事をする。
「だが、まだあまり顔色が良くないようだ……夕食まで部屋で休んだほうが良いだろう」
「そうね、それが良いかもしれないわ」
祖父の言葉に相槌を打つ祖母。
「はい、そうします。レオナルド様、部屋まで送っていただけませんか?」
先程の件で、謝りたかったのでレオナルドに声をかけた。
「え? 俺に?」
「うむ、そうだな。レオナルド、部屋までレティを送ってやりなさい」
「ええ、そうね。あなたが適任だわ」
意外そうな表情を浮かべるレオナルドに対し、祖父母は笑みを浮かべる。
「分かりました。それでは部屋に行こうか? レティ」
「はい、レオナルド様」
返事をすると、祖父母に挨拶した。
「お祖父様、お祖母様。それでは一旦失礼します」
「ああ、また後でな」
「夕食までゆっくりおやすみなさい」
私は2人に見送られながら、レオナルドとともにその場を後にした――
**
「申し訳ございませんでした。レオナルド様」
廊下に誰も居ないのを見計らってから、レオナルドに謝罪した。
「え? 何を謝るんだ?」
何も心当たりが無いのか、レオナルドは首を傾げる。
「馬車の中での話です。私が大学内では兄妹の関係でいましょうと提案したばかりにお祖母様に色々質問されてしまいましたよね?」
「何だ、そのことか。別にレティシアのせいではないだろう? 俺がまだ体調が万全ではないレティシアの家にカサンドラを連れて行ったからだよ」
「それはカサンドラさんに頼まれて……やむを得ずそうしたのですよね?」
「……」
けれどレオナルドは質問に答えずに、微妙な表情で私を見つめる。
「あの……レオナルド様?」
「別にやむを得ずというわけでもないさ。カサンドラに頼まれたのは確かだが……他にも少し理由があってね」
「理由ですか? それはどんな……」
そこまで話したとき、私の部屋の前に到着した。
「レティ、それじゃまた後で呼びに来るよ。それまで休んでいた方がいい」
「は、はい」
返事をするとレオナルドは私の頭をそっと撫でて去っていった。その背中を見送ると、部屋の扉を開けた。
テーブルに置かれたオイルランプに明かりを灯すと、ベッドに倒れ込むように横になった。
「……疲れたわ……やっぱりまだ体調が万全ではないのかも……」
ベッドの中で、先程のレオナルドの言葉を思い出す。
『別にやむを得ずというわけでもないさ。カサンドラに頼まれたのは確かだが……他にも少し理由があってね』
他の理由……一体どんな理由なのだろう?
「また後で聞けばいいわね……それより少し休みましょう」
そして身体を休めるために、目を閉じた――
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