16 友人に報告

「おはよう、レティ」


教室へ入ると、ヴィオラが声を掛けてきた。


「おはよう。ヴィオラ」


「あら、どうしたの? 何だか朝から随分疲れているように見えるけど。何かあったの?」


心配そうに私を覗き込んでくるヴィオラ。


「ヴィオラ……」


もうフィオナは転入生として、この学校にやってきた。ヴィオラに事情を説明しても良いだろう。


「あのね。実は……」


私はヴィオラに何があったのかを説明した。イメルダ夫人のこと、そしてフィオナのことを。……もっとも、セブランが彼女に惹かれているかもしれないという話は伏せて。

ヴィオラは私が話し終えるまでの間、じっと黙って聞いてくれた。



「……そんなことがあったのね……それにしてもレティのお父さんに妾どころかその子供がいたなんて……」


話を聞き終えたヴィオラがため息をつく。妾という言葉で私は焦った。


「待って、ヴィオラ。別に妾と言うわけでは……」


しかし、彼女はきっちりと言い切った。


「何を言ってるの? こんなの誰が聞いても妾の関係よ。恋人同士だった? そんなのは関係ないわ。だってレティのお母さんが奥さんだったわけでしょう?」


「それは……そう、だけど……」


でも父はイメルダ夫人とフィオナをとても大切にしている。それにあの三人はとても仲が良い。だから私は自分の方が場違いな居心地の悪さを感じていたのだ。


「全く、それにしても図々しい親子よね。レティのお母さんが亡くなってまだ二か月しか経っていないのに母娘で上がり込んでくるなんて。しかも我が物顔で屋敷の中で振舞っているなんて……許せないわ」


「落ち着いて、ヴィオラ。少なくともフィオナに悪気は無い‥‥…と思うの」


最後の方はしりすぼみの声になってしまった。フィオナに悪気は無いと言っておきながらも、本当にそうなのだろうかと自問自答している自分がいやだった。


「レティ……。分かったわ、もし彼女と会っても何気なく接する様にする。けれど、私の見ている前であなたに嫌な態度を取ったりすれば流石の私も黙っていられないけどね」


「ありがとう、ヴィオラ」


「ところで、フィオナは何クラスになるのかしらね。出来れば私達と同じクラスにはなって貰いたくは無いわ」


「……そうね。何クラスに転入してくるのかしら」


同じクラスになるのも嫌だけど、セブランとも同じクラスにはなってほしくない。出

来れば私達とは違うクラスになってくれればいいのに……こんな風に考えてしまう自分がいやだった。




****


 昼休み――


 学生食堂で私とヴィオラは食事をしていた。


「とうとう、レティの義理の妹に会わなかったわね」


食事を食べ終えたヴィオラが話しかけてきた。


「ええ、そうね。お父様に学園内でフィオナの面倒を見るように言われていたから、てっきり同じクラスになるのかとばかり思っていたけど」


結局、フィオナは私のいるクラスにはやって来なかった。


「何処のクラスになったのかしらね……Bクラス? それともCクラスかしら?」


「そうね。どこかしら‥‥‥」


出来ればセブランのいるBクラスでなければいいのだけど……とてもその気持ちを口にすることは出来なかった。



 その時――



「何だ? レティシア。まだ食べ終わっていなかったのか?」


真上から声が降ってきて、慌てて顔を上げるとそこにはイザークが立っていた。


「あ……イザーク」


「昨日言っておいただろう? 今日は昼休み美化委員会の活動があるって」


「ええ。そうだったわね。ごめんなさい、すぐに食べ終えるから」


するとヴィオラが口を尖らせる。


「ちょっと、イザーク。 委員会の活動まで後十五分あるじゃない。何もそんなに焦らせなくたっていいでしょう?」


するとイザークは少しの間何か考え込むかのように黙っていたが、やがて口を開いた。


「……そうだったな。急かすような真似して悪かった。それじゃ俺は先に行ってるから」


それだけ告げるとイザークは背を向けて去って行った。


「全く……イザークは何を考えているか分からないわ。不愛想だし‥‥‥あんなんでよく美化委員会なんてやっていられるわね。大体、あまり男子生徒は美化委員会なんてやりたがらないのに」


「私は委員会の仕事好きだけどね。花と触れ合えるから」


美化委員になりたがる人はあまりいない。私は花が好きだったから花壇の手入れの仕事をしたくて自分から美化委員に手を上げた。もっともイザークが一緒に手を上げた時には驚いたけれども。


最後の食事を食べ終えると、私は席を立った。


「それじゃ、ごめんなさい。委員会活動に行かないといけないから」


「ええ、いってらっしゃい」


こうして私はヴィオラに見送られ、食堂を後にした――

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