22 レオナルド・グレンジャーの事情 ㉒
――17時半
ダイニングルームに祖父から呼び出しを受けていた。
何故祖父から呼び出されているのか理由は聞いていないが、予想はついていた。
おそらくカサンドラのことだろう。
扉をノックすると、「入りなさい」と祖父の声が聞こえてきた。
「失礼します」
扉を開けて中に入ると、祖父が難しい顔で席についている。
「来たか。レオナルド、座りなさい」
「……はい」
祖父のすぐ近くの椅子に座ると、早速質問された。
「カトレアに聞いたのだが、お前は同じ大学に通う女子学生と親しくしているらしいな。しかも彼女はお前とレティシアを本当の兄妹の関係だと思っているそうだが……まぁ、それはレティシアからお前にそう頼んできたと聞いている」
祖父はそこで一度言葉を切った。
「一体どういうことなのだ? カトレアの話では、その女子学生はお前に好意を抱いているように見えたと話していたぞ? 私はお前に言ったよな? レティシアに婚約の申し出をしろと。2人の様子を見る限り……恐らく何も伝えていないだろう?」
「……はい。伝えていません」
「何故だ? お前とレティシアが結婚することが、このカルディナ家にとって最善の方法だとは思わないのか? それともレティシアのことが気に入らないのか?」
「まさか! そんなはずはありません」
気に入らない? むしろ、俺はレティシアのことが好きなのに?
「だったら何故だ? まさか、その女子学生のことが好きなのか?」
「……はい。そうです」
カサンドラは俺にとっては大学の同級生で友人というだけの感情しか持っていない。
だが……祖父を納得させるには嘘をつくしかなかった。
俺にとって大恩人で、そして実の親のような存在である祖父に……。
途端に祖父が顔をしかめる。
「レティシアよりもか?」
「そうです。レティシアは俺にとって、可愛い妹のような存在ですから。お祖父様には申し訳ありませんが……カサンドラに婚約の申し出をしようかと考えていました。
「……本気で言ってるのか? レオナルド」
苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべる祖父。
「はい。……本気です」
「!」
祖父が何か言葉を発しようとしたその時。
「お待たせしたわね、お二人とも」
「お待たせ致しました、お祖父様。レオナルド様」
タイミング良く祖母とレティが現れた。
……しまった! まさか、今の話を聞かれてしまっただろうか?
恐る恐るレティを見ると、彼女の顔色は青ざめていた……。
その後――
祖父母は婚約の話に触れることなく、2人が中心になって会話をしていた。
恐らく病み上がりのレティに気を使っていたのだろう。
食事をしながら、レティの様子をそっと見た。
まだ少し顔色が良くないものの、食事をしている。
遠い……。
何て遠い場所にレティはいるのだろう。
手を伸ばせばすぐに届くのに、心の距離は遠ざかるばかりだ。
俺が、レティのことを好きにならなければ……。
レティがシオンのことを好きにならなければ、損得感情だけで俺は彼女に婚約の申し出をすることが出来たのに。
祖父との話し合いはまだ解決していないが……どうしてもカサンドラとの婚約を祖父が受け入れてくれなければ……。
そのときは、この家を出よう。
祖父母には多大なる恩があるが、俺には無理やりレティと婚約するような真似は出来そうにない。
レティが大切だから――
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