4 言えない言葉
翌朝――
いつも通りの時間に目覚めた私は今日こそ大学へ行こうと思い、朝の準備を始めた。
髪をとかしてリボンを結んでいる時、部屋の扉がノックされて祖母の声が聞こえてきた。
『起きている? レティ』
「はい、起きてます。どうぞ」
大きな声で返事をすると、祖母が扉を開けて入ってきた。
「おはよう、レティ。あら? もしかして大学へ行くつもりなの?」
「はい。もう熱もありませんし。入学したばかりで何日もお休みするわけにはいきませんので。それにアルバイト先に届けたい品物もありますから」
「そうなのね、それで支度は終わったのかしら?」
「はい、終わりました」
「そう、なら一緒にダイニングルームへ行きましょう」
私は頷き、祖母と一緒にダイニングルームへ向かった。
ダイニングルームへ行くと、祖父とレオナルドが既に着席していた。
「おはよございます、あなた。レオナルド」
「おはようございます」
祖母に続いて、私も朝の挨拶をすると祖父が笑顔で返事をした。
「ああ、おはよう」
「おはようございます……レティ、もう大丈夫なのか?」
レオナルドが心配そうに尋ねてくる。
「はい、もう大丈夫です。昨夜もお祖父様とお祖母様と一緒に夕食を頂きました」
「そう……だったのか。それは良かった」
私達の会話を聞いていた祖父が声をかけてきた。
「では、いただこうか?」
こうして4人での朝食が始まった――
****
――8時半
大学へ行く時間となり、祖父母が見送りに外まで出てきていた。
「レティ、今日はこの屋敷に戻ってくるのか?」
祖父が尋ねてきた。
「いえ、今日は家に帰ろうと思っています」
「大丈夫なの? まだ病み上がりなのに」
祖母が心配そうに私を見つめる。
「はい、大丈夫です。それに何日も家を開けておくのは心配なので今日は帰ります」
するとレオナルドが声をかけてきた。
「それなら、帰りは一緒に帰ろう。馬車で家まで送るよ」
「ありがとうございます。では、お祖父様。お祖母様、行ってまいります」
「行ってきます」
「「行ってらっしゃい」」
4人で挨拶を交わしてレオナルドと馬車に乗り込み、馬はすぐに走り出した。
馬車が走り出すと、レオナルドがすぐに話しかけてきた。
「レティ、本当にもう具合は大丈夫なのか?」
「はい、お陰様ですっかり良くなりました。それで、レオナルド様。昨夜はカサンドラさんとのお話は……どうなりましたか?」
レオナルドが答えにくい質問をしているのは分かってはいたが、知りたかった。
「カサンドラとの話か……。婚約を申しいれたら、快く受け入れてくれたよ」
「そうなのですね。それは……良かったです」
本当ならここで「おめでとうございます」と言うべきなのだろうが、どうしても言えなかった。
レオナルドには別に好きな女性がいる。そのことを考えると、どうしても言えなかったのだ。
「ありがとう、カサンドラは両親に認められたらすぐにでも婚約をしたいと言ってきたんだ。在校中に結婚も出来ればしたいと言っていたしな」
淡々と語るレオナルドからは何を考えているのか、心の内が読めなかった。
「では、いずれ私にはお姉様が出来るということですね。レオナルド様と私は兄妹のような関係ですから」
わざと明るい声を出す。
「うん、そういうことになるな。……それで、レティは……」
そこまで言いかけてレオナルドは口を閉ざす。
「レオナルド様……?」
「い、いや。今日はバイト先に行くのかと思ってね」
「はい、行くつもりです。ヘレンさんから頼まれたクッションカバーの刺繍が出来上がったので持っていくつもりなのです」
「そうなのか? 今持っているなら見せてもらえるか?」
「ええ、いいですよ」
私はクッションカバーをカバンから取り出すとレオナルドに見せた。
「すごいな……流石はレティだ。上手に出来ている」
感心した様子で作品を見るレオナルド。
その後は大学に到着するまで、二人で私の刺繍の話で会話がはずんだ――
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