24 祖父と父 1

 応接間には緊迫した空気が流れていた。


向かい側には父が座り、私の隣には祖父母が並んで座っている。


「フランク……よくも図々しく、今更我らの前に姿を現せたものだな? 貴様のせいで娘のルクレチアは心を病んで病気になった挙げ句に死んでしまったのだぞ! 貴様がルクレチアを殺したのだ!」


祖父は怒りを露に叫んだ。


「はい……その通りです。返す言葉もありません……」


その言葉に父は苦しげにうつむく。


「貴方、気持ちは分かりますが落ち着いて下さい。レティシアの前ですよ?」


祖母が興奮気味の祖父を宥めようとした。


「あ、ああ……それは分かっている。だがこの男は最低な男だ。娘と結婚していながら愛人を囲っていたのだからな。挙げ句に子供までもうけて……ルクレチアはそのせいで心を病んだ挙げ句に死んでしまったのだぞ!」


祖父は父を指さした。


「いいか? 貴様の愚行はここ『アネモネ』島にも噂で届いていたのだからな! それなのに貴様は一度たりとも謝罪に来ることすら無かったのだぞ! 自分がどれだけ非常識な人間か分かっておるのか!」


「本当に申し訳ございません……何度もこちらへ直に伺ってお詫びしたいと謝罪の手紙を送らせて頂いたのですが、一度も連絡を頂くことが出来なかったので……ここへ私が訪ねることすら許されないのだろうと思い、伺うことをためらっておりました」


「え……?」


私は思わず声が漏れてしまった。

それではやはり、父は祖父母に手紙を出し続けていたのだ。けれど、この屋敷の執事によって手紙は隠蔽され続けてきたから両家の溝は深まってしまった……?


祖父母もそのことに気付いたのか、一瞬息を飲み……祖母が口を開いた。


「そうね……私達もずっとカルディナ家に手紙を送り続けていたのよ。もっとも一度も返事を貰うことは無かったけれども」


「え? 何ですって? 私に手紙を……? しかし、一度も……」


けれど父はそこで口を閉ざしてしまった。ひょっとすると、祖父母に気を使ったのだろうか?


「ええ、そのことについてはこちらから謝罪するわ。実はこの屋敷に長年務めていた執事が……双方の手紙を隠していたのよ。理由は長年お付き合いしてる恋人がいるにも関わらず、ルクレチアと結婚した貴方を憎んでいたからだそうよ」


「そうだったのですか……?」


祖母の話に父は顔を青ざめさせる。


「フン! その執事は当然クビにしたが……アイツがお前を憎む気持ちも理解出来る。何しろお前は恋人と別れるどころか、娘と結婚後は愛人として囲い……娘まで設けた。挙げ句にルクレチアが亡くなった後、たったの二ヶ月で愛人と再婚して屋敷に招き入れたのだからな!」


祖父が再び父を怒鳴りつけた。


すると……


「それは違います!」


父が初めて反論した。


「何? 何が違うと言うのだ!」


祖父は父の態度が気に入らなかったのか、苛立ち紛れに睨みつけた。


「彼女……イメルダは私の恋人だったことも愛人だったことも一度はありません。それに彼女の娘は私の子供ではありませんし……第一、私は再婚などしておりません。イメルダは何も気付いてはおりませんが……籍など入れておりませんから」


父は祖父の目を真っ直ぐに見つめた――

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