19 驚きの会話
馬車が屋敷の門を潜り抜けると、扉の前には当たり前のようにイメルダ夫人が立っている姿が目に入った。
恐らく、昨夜の話をセブランから聞き出したくて待っているに違いない。
セブラン……
私の向かい側で隣あって座るフィオナとセブランは今も楽し気に話をしている。セブランはフィオナに私達が共に十八歳になったら婚約することを既に話してしまっている。
もう……どんな手を使っても夫人に知られてしまうことは防ぎようが無い。
私は全てを諦めて、スカートの上で両手を強く握りしめるのだった――
「お帰りなさい、フィオナ」
真っ先に馬車から降りたフィオナを夫人は笑顔で迎える。そして次にセブランに抱きかかえられて馬車から降りる私には目もくれず、夫人はセブランに礼を述べた。
「送っていただき、ありがとうございます。セブラン様。それに…‥‥」
一瞬夫人は私を鋭い目で睨みつけ、その視線に思わず肩が跳ねてしまう。
「毎回レティシアが御迷惑をお掛けして、大変申し訳ございません」
「いえ、迷惑だなんて、仰らないで下さい」
笑顔で返すセブラン。
「ねぇ、お母様、聞いて下さい。昨夜、セブラン様とレティが十八歳になったら婚約する約束を交わしたそうなの!」
「え! な、何ですって!? その話……本当なのですか!?」
夫人はフィオナの話に目を見開き、セブランに問い詰めてくる。
「え? え、ええ。そうですけど……」
セブランは戸惑いながらも私を車椅子の上に下ろしてくれた。
「ありがとう、セブラン」
「お礼なんかいいよ。レティ」
すると、イライラした口調で夫人がさらに尋ねて来た。
「そんなことよりも、セブラン様。先ほどの話の続きを聞かせて頂けませんか?」
「え? 先程のって……レティとの婚約の話ですか?」
「ええ、そうです。何故そのような話になってしまったのですか?」
すると、セブランの口から信じられない言葉が飛び出した。
「それは子供の頃からレティとの結婚は決まっていて、十八歳になったら婚約するという話はその場の流れで何となく決まったのですけど……?」
「!!」
その言葉に血の気が引くのを感じた。
何となく?
婚約と言う大事な話をセブランは周囲に流されて決めてしまったというのだろうか?
私に対する愛情は一欠片も無いの?
すると、クスリとフィオナが笑う。
まさかセブランはフィオナにも同じことを……?
しかし、今の言葉で夫人の顔には嬉しそうな笑みが浮かぶ。
「まぁ、そうだったのですか? 何となく決まったということなのですね?」
「はい……そんなところです」
頷くセブラン。
耳を塞ぎたくなるような会話に、これ以上この場にいることが耐えられなかった。
「あら? どうしたの? レティ。顔が真っ青よ?」
フィオナが私の顔を覗き込んできた。
「……す、少し気分が……」
心臓の動悸が激しくなる。
「え? 大丈夫なの? レティ」
セブランが心配そうに声を掛けて来るも、私の胸は張り裂けそうだった。
「わ、私……気分が悪いので先に部屋に戻らせて貰うわ」
セブランの顔を見るのが辛い……思わず顔を逸らせた。
「ええ、そうね。そのほうがいいかもしれないわ」
私の言葉に頷く夫人。
「セブラン、送ってくれてありがとう」
「うん、また明日ね。フィオナ」
そして私は彼に挨拶をするとその場を後にした。
背後で聞こえる三人の楽し気な話声を聞きながら――
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