27 セブラン 4

 レティと婚約しても、僕とフィオナの関係は変わらなかった。


フィオナは婚約のことについて何も問いかけることはなかったし、レティも僕に対して、態度が変化することは無かった。


自分の周辺が今までと何も変わらなかったことに安堵していた。




そして、卒業式まで半月を切った頃――


いつものように三人で馬車で登校し、レティとクラスの前で別れるとすぐにフィオナが話しかけてきた。


「セブラン様、もうすぐ卒業式ですね」


「うん、そうだね。三年間ってあっという間だったね」


でも、三人ともこのまま付属の大学部に進学するので、とくに大きな変化は無いだろう。


「セブラン様は卒業パーティーでどんな色のスーツを着るのですか? レティとお揃いですか?」


「え? パーティー衣装?」


突然の質問に一瞬戸惑う。何故ここでレティの名前が出てくるのだろう。


「はい、レティとは婚約しているので当然パートナーは彼女なのでしょう? だから衣装も同じ色に揃えているのではないですか?」


あ……そうか。

僕のパートナーはレティになるのか……全く意識していなかった。大体、二人の間で卒業記念パーティーの話すら出たことが無い。と言うか、ここ最近レティと二人きりで話をしたことがあっただろうか? 


「レティとは……衣装の話をしたことは無いんだ……」


もう既に僕はスーツを新調してしまっている。自分の好きな薄水色のスーツを……。

そう言えばレティは何色のドレスを着るのだろう? 気にもとめていなかった。


「まぁ、そうだったのですか? それでセブラン様は何色のスーツを着るのですか?」


「……僕は、薄水色のスーツを着る予定だよ」


「薄水色のスーツですか。きっとセブラン様によくお似合いになるでしょうね?」


フィオナは満面の笑みを浮かべる。その笑顔にドキドキしながら彼女に尋ねた。


「ありがとう、それでフィオナは何色のドレスを着るのかな?」


「う〜ん……それがまだ決まっていないんですよ。明日にでも母と衣装店に行ってみることにします」


「う、うん。そうだね、それがいいよ」


いつもならここで、「僕も付き合おうか?」と声をかけるところだった。けれども、今回はやめた。

何故か、ふとレティの顔が脳裏に浮かび……彼女に悪い気がしたからだ。


よし、卒業パーティーの最初のダンスの相手はレティに申し込むことにしよう。

何しろ、彼女は僕の婚約者なのだから。フィオナとは二番目に踊ればいい。


僕は隣を歩くフィオナを横目で見ながら思った。


フィオナはどんな色のドレスを着るのだろう?

彼女は綺麗だから、何を着ても似合うに違いない。


僕は卒業記念パーティーでフィオナと踊る自分を想像し……すっかり楽しい気持ちになっていた。


この頃の僕は、レティが心の中で何を思っているのかなんて考えたことすら無かった。


まさか卒業記念パーティーであんな事態になるとは思ってもいなかった。

彼女はいつも穏やかで、冷静だったから。いや、僕が何も気付こうとしていなかったからなのだ。



そして……運命の卒業式がついに、やってくる――




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