39 掛け替えのない居場所

「あの、徹底的に追い詰めたいとは……どういう意味なのでしょうか?」


レオナルドの言っている言葉の意味が理解出来なかった。


「君の父親はイメルダとその娘を追い詰める手筈が整っているのだろうが、それだけじゃ足りないってことだ。俺たちのほうで、さらに逃げ場が無いように追い詰める気は無いかってことだ」


「レオナルド様……」


すると、そこへシオンさんが会話に入って来た。


「おい、レオナルド。さっきからお前は一体何を言ってるんだ? 俺にも分かるように説明してくれ」


「分かってるって。説明するためにはまず、レティシアの許可を得なければならないからな」


「私の許可……ですか?」


レオナルドの言葉に首を傾げる。


「ああ、そうだ。レティシア、シオンの力を借りれば確実に君を苦しめてきた者たちを追い詰められる。だから、カルディナ家の事情をシオンに話してもいいか?」


じっと私の目を見つめるレオナルド。彼は祖父母の信頼する人物。そして私も……


「分かりました。お話しても大丈夫です」


頷く私を怪訝そうにシオンさんは見つめていた――




****



 私たち三人は場所を変えて、大学内にある喫茶店に来ていた。


レオナルドは私の事情を全てシオンさんに説明し、その間彼は一度も口を挟まずにじっと話を聞いていた。


そして……


「分かった、俺で良ければ協力しよう」


「本当か? 助かる。シオン」


「あの、でも本当によろしいのですか? 色々お忙しいのではありませんか」


レオナルドは嬉しそうだけれども、私は自分の家の事情にシオンさんを巻き込むのは少し申し訳ない気がした。

毎日大学に来ているということは、忙しい人に違いないはずなのに。


「いや、そんなことレティシアは何も気にしないでいい。シオンは暇だから大学に通ってきているだけなんだ」


「あのなぁ、レオナルド。何故、それをお前が言うんだよ?」


「だって、事実だろう?」


「あ、ああ。まぁそれは……確かにそうかもしれないが……」


「なら、別にかまわないじゃないか」


レオナルドは笑顔でシオンに話しかけている。その様子を眺めながら私は思った。

このふたりは、本当に親友同士なのだと――



****


 シオンさんと六日後の約束をした私とレオナルドは帰りの馬車に揺られていた。


「レティシア、大学はどうだった?」


「はい、とても気に入りました。是非この大学に通ってみたいと思います」


あの後、再びレオナルドに大学の構内を案内してもらった私はすっかり『アネモネ』大学が気に入ってしまった。


「そうか、ならすぐに入学願書を書いた方がいいな」


「はい、そうですね」


「それじゃ、いよいよ本当にレティシアは『アネモネ』島で暮らす決意を固めたってことだな」


レオナルドがじっと、私の目を見つめる。


「え? そのつもりでしたけど……?」


「いや、実はレティシアの父親がやってきたとき……気持ちが揺らいだのではないかと思ったんだ。まして、君を苦しめてきたイメルダとフィオナを追い出すと宣言してくれたのだろう? そうなるとあの家で暮らす障害物はなくなるのだから」


「確かにそうかもしれませんが……私は今の、『アネモネ』島での暮らしの方が大切で、掛け替えのないものですから」


すると私の言葉にレオナルドが笑みを浮かべた。


「それを聞いて安心した。祖父母もきっと喜ぶよ。あのふたりは本当にレティシアを愛しているからな」


「それは、私も感じています」


セブランの両親も私に愛情を注いでくれたけれども、やはり祖父母からの愛情に勝るものは無かった。


「ヴィオラにはこの島の大学に通うことを告げてあるのか?」


「はい、大学見学に行くことは伝えてあるので気付いていると思います。でもきっとヴィオラなら分かってくれると思います。……親友ですから」


「そうか。イザークには話しているのか?」


「いえ? まだですけど。一応大学見学に行く話をしようと思っていたのですが出掛けてしまって会えなかったので」


「イザークは一体どんな反応をするだろうな」


「え? さ、さぁ……でも多分彼のことですから『分かった』と言うのではないでしょうか?」


何故、レオナルドはそんなことを聞くのだろう?


「ふ~ん。果たしてそうかな。でも彼もレティシアが心配でこの島にやってきたのだから大学進学の話は報告した方がいいだろう」


「はい、もちろんです」


このときの私はイザークへの報告を軽い気持ちで考えていた。


彼の心中に、何も気づいていなかったから――




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