25 書斎での話
レオナルドの書斎に来るのは久しぶりだった。
思えば、祖父母からレオナルドとの婚約の話を持ちかけられて以来かもしれない。あの日から、私はレオナルドにどう接したら良いか分からず意図的に避けていたから……。
「そこのソファに掛けてくれ」
書斎に置かれたソファを勧められた。
「ありがとうございます」
ソファに座ると、部屋を見渡し……カーテンの色が変わっていることに気づいた。以前は青い色だったのに、今は薄紫色に変わっている。
「カーテンの色、変えたのですね?」
「あ? ああ、そうなんだ。少し気分を変えてみようかと思ってね」
レオナルドはためらいがちに返事をすると向かい側に座った。
「……お仕事、忙しいのですか?」
最近レオナルドは元気がない。もしかして疲れているのだろうか?
「ん。少し、な」
「それは……私が最近お手伝いしていないから……ですよね?」
うつむきながら、膝に置かれた手をギュッと握りしめた。
「い、いや。それは違うぞ? 大学が始まったから少し忙しくなっただけだ。大体レティに手伝って貰う以前から1人で仕事をしていたんだから」
慌てたように答えるレオナルド。
そう、彼はいつだって私に優しくしてくれている。
母の亡くなった原因の究明も、イメルダ夫人を罪に問うことが出来たのも……それにセブランから私を守ってくれたのも……。
シオンさんと出会えたきっかけを作ってくれたのも、大学に通うことが出来るのも全てレオナルドのお陰なのだ。
私はこんなにもレオナルドのお世話になっているのに……。
益々申し訳ない気持ちが込み上げてくる。
「どうしたんだ? レティ? まだ具合でも悪いのか?」
私の様子がおかしいと思ったのだろう。レオナルドが心配そうに尋ねてきた。
「いいえ、私なら大丈夫です。それよりもレオナルド様の方が心配です」
「俺のことが?」
怪訝そうに首を傾げるレオナルド。
「はい、ここ最近……お祖母様やお祖父様との関係がうまくいっていないのではありませんか?」
うまく言っていない理由は見当がついている。それは恐らく私が原因に違いない。
けれど、どうしても自分の口からはレオナルドとの婚約の話が出ていることは口に出せなかった。
だって、私が好きな人はシオンさん。そのことに気付かせてくれたのはレオナルドなのだから。
「何だ? そのことか? 別にそんなことはないぞ。いつもと変わらないさ」
レオナルドは私に笑顔で答える。
どこまでも私を心配させないように振る舞っているのは分かっている。
「……けど、私。聞いてしまったのです。ダイニングルームでお祖父様と何か話されていましたよね? 本気で言ってるのかって……」
私の言葉にレオナルドの肩がピクリと動く。やっぱり何か重大な話だったのだ。
「お祖父様とレオナルド様のお話なので、無理に聞き出そうとは思いません。ただ、この家のことに関わるお話なら……わ、私にも関係があるはずですよね? だから教えていただけませんか?」
レオナルドは少しの間、黙って私を見つめていたが……ため息をつくと決心したかのように口を開いた。
「実は……カサンドラと婚約しようかと……考えているんだ」
そしてどこか寂しげに笑う。
「え……?」
思いがけない話に、私はレオナルドを見つめた――
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