27 苦悩する2人
「本当に……いいのですか……?」
気づけば言葉が口をついて出ていた。
「え?」
レオナルドが首を傾げる。
「レオナルド様は……本当にそれでいいのですか? カサンドラさんに婚約の申し出をしても……」
「……どうして、そう思うんだ?」
「そ、それは……レオナルド様が悲しそうに見えたからです……まるで、私がセブランから婚約の申し出を受けたときのように……」
「セブランから?」
久しぶりにセブランの名前を耳にしたからだろうか、レオナルドは眉をひそめる。
「フィオナが現れてからはセブランが私に全く興味が無いのは分かっていました。それなのに、父と、自分の両親の言いつけを守るために私に婚約の申し出をしたのです。私はそのことを知っていたから……あのときはとても悲しかったです……」
レオナルドは無言のまま私の話を聞いている。
「レオナルド様がカサンドラさんのことを好きだというのなら、話は別です。でも、そうでなければ……」
そこまで話して、口を閉ざした。
レオナルドには幸せになってもらいたい。だから、望まぬ相手と結婚して後悔してほしくはないのに……その原因を作ってしまっているのは、他ならぬ私なのだから。
私は……一体どうしたいのだろう?
皆が幸せになる方法は無いのだろうか……?
その時、あることに気づいた。
「そういえば、レオナルド様には好きな女性はいらっしゃらないのですか?」
「好きな女性……か……」
私の質問にポツリと呟くレオナルド。
「先程のレオナルド様の口ぶりでは、カサンドラさんに特別な好意を抱いているようには見えなかったので……もしかして別に好きな女性でもいらっしゃいますか?」
けれど、思いを寄せる女性がいないからカサンドラさんに婚約を申し出るのだろう。私のために……。
けれど、驚きの言葉がレオナルドの口から出てきた。
「好きな女性なら、いる」
「え? そうなのですか? 相手の方は……カサンドラさんですか?」
「いや。残念ながら彼女ではないよ」
首を振るレオナルド。
「では、一体誰を……あ! す、すみません! 変なことを尋ねてしまって!」
私はなんて質問をしてしまったのだろう。レオナルドの好きな女性を聞き出そうとするなんて……自己嫌悪に陥ってしまう。
「別に謝ることはないさ。第一、相手には自分の気持ちを告げてもいないし」
そう語るレオナルドは、やはり寂しげだった。
「そうなのですか? でも、好きな女性がいらっしゃるのなら思いを告げてみてはいかがですか?」
余計なお世話だと思いつつ、提案してみる。
その女性もレオナルドに好意を抱いていれば、婚約することだって可能かもしれないのに。
そうすれば、全ては丸く収まる。
「駄目なんだ。それは出来ない。何故ならその女性には他に好きな男がいるからな。
自分の気持ちを告げて、彼女を困らせたくはないんだ」
レオナルドはきっぱり言い切る。
「レオナルド様……」
相手の女性のことを考えて、告白しないなんて……なんて大人なのだろう。だけどあまりにもレオナルドが気の毒だ。
「大丈夫だ。カサンドラと婚約したら、彼女を大切にすると約束するよ。大体貴族同士の結婚には、良くある話だろう? 中には釣書だけ交換してそのまま結婚する場合だってある。それを考えると、俺はずっと恵まれているさ。何しろカサンドラは同じ大学の同級生で、良く知った仲だし」
レオナルドは本当にそれで良いのだろうか? 第一、何故祖父母はこんなにも早く結婚させようとするのだろう? レオナルドはまだ20歳。焦らせる必要はないはずだ。
今はその女性に告白できなくても、いずれ相手の気持ちも変わるかもしれない。
何より、他に好きな女性が現れるかもしれないのに。
「レオナルド様、もう少し婚約の話を祖父母に待ってもらうようにお願いしてみてはいかがでしょうか?」
けれど、私の提案にレオナルドの顔が曇る。
「それは……無理なんだ。」
「何故ですか?」
「俺は養子だから、祖父母の言うことは絶対に聞かないと」
「そ、そんな……」
けれど、私だって養子だ。いくら孫だからと言っても、カルディナ家と縁を切って私から養子にして欲しいとお願いしている。
その時。
――ボーン ボーン ボーン
22時を告げる鐘の音が書斎に響き渡る。
「もうこんな時間か……。レティ、今夜は休んだほうがいい。病み上がりなんだろう? 俺もそろそろ仕事をしなければならないし」
「あ……そうでしたね。レオナルド様はお忙しい方なのに、お時間取らせてしまいまして申し訳ございませんでした」
本当はもっと色々話をしたかったのに。
「気にしないでいい。レティと話をするのは……だから」
「え? 今何と言いましたか?」
途中、声が小さくて聞こえなかった。
「何でも無い。部屋まで送ろうか?」
「いえ、大丈夫です。それでは失礼します」
「ああ、またな」
私はレオナルドに見送られ、部屋を後にした。
まだ、隠し事が残されていることも知らないまま――
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