4 残された人々 イザークの場合 4
港に馬車が到着すると、すぐに俺たちは近海を行き来する船着き場へ向かった。
「ここだ……」
港には中型の蒸気船が四船接岸されていた。港には多くの人々が旅行カバンやスーツケースを持って行き交っていた。
「受付はどこかしら……」
ヴィオラは辺りをキョロキョロ見渡している。
「あれじゃないか?」
船着き場の少し先に小さな小屋を見つけた。
「行ってみよう」
「ええ、そうね」
そして俺たちは小屋に向かうと、やはりそこは乗船切符の販売と案内をしている受付だった。
「すみません。今から二〜三時間程前に彼女と同じ制服を着た女性を見かけませんでしたか?」
一縷の望みに賭けて、俺は従業員男性に尋ねた。
「え? 同じ制服の女性? 今から二〜三時間程前に……? う〜ん……」
彼は少しの間腕組みをして考え込む仕草をした。緊張しながら俺は彼の返事を待つ。
「……申し訳ございません。見かけていないですね」
「そうですか……」
「そんな……!」
その答えに落胆する。けれど、次に彼の口から思いがけない台詞が飛び出す。
「でも、もしかすると別の者が見ているかもしれません。ちょっと待っていて下さいね」
彼は何を思ったのか、小屋から出ていくと、先程俺たちが馬車を降りた港の入り口の方へと走っていった。
「どこに行ったのかしら……?」
「さぁな、誰か呼びに行ったのかもしれないな」
腕時計を見ると、時刻はそろそろ十六時半になろうとしている。
俺は青い顔で港を見つめているヴィオラの様子を伺った。突然消えてしまったレティシアのことが余程心配なのだろう。
レティシア……今頃、どこで何をしている? ヴィオラに相談できないほど君は追い詰められていたのか?
こんなことになるなら……もっとレティシアと積極的に関わっていれば良かった……
そうしたら相談に乗ってやることができたかもしれない。
だが彼女にはセブランという婚約者がいた。レティシアがいるのに平気でフィオナと親密な関係になっている不誠実な男だったけれども……だから俺は……
思わず拳を握りしめたとき――
「お客様ー!」
先程の男性が戻ってきた。その背後には別の男性も一緒だ。
「実は彼と交代で受付をしていたんですよ」
彼は俺たちに声をかけると、別の従業員男性がヴィオラを見た。
「あ、見ましたよ。真っ白な服が目立ったので覚えています」
「本当ですか!?」
その言葉に思わず大きな声が出てしまった。
「それで、何処へ行く船に乗ったか分かりますか!?」
ヴィオラが尋ねた。
「いや……申し訳ありません。そこまでは……何しろここの船着き場からでも十箇所近い港に向けて出向しますから……」
申し訳無さそうに謝られた。それなら……
「それでは伺いたいのですが、青い屋根に白い建物の町並みがある島はありますか?」
レティシアが俺に話していたことを尋ねてみた。
「あ、その島なら知ってますよ。『アネモネ』島です。コバルトブルーの海がとてもきれいな観光島ですよ。ここから船で約六時間で到着できます」
「「『アネモネ』島……?」」
俺とヴィオラは顔を見合わせた――
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