7 私を探し出せた理由 2

「イザーク……まさか、私の言った言葉を覚えていたの?」


「そんなのは当然だろう?」


私から視線をそらさずに頷くイザーク。

信じられなかった、何の気なしに口にした言葉をイザークが覚えていたなんて。

隣に座るレオナルドはじっと私を見つめていたが、向かい側に座るふたりに声を掛けてきた。


「そうか、それで君たちはこの島にいるに違いないと思って2人で一緒にここまで来たというわけだな?」


「ああ、そうだ……」


するとイザークは気まずそうに視線をそらす。


「もしかして、君たちは……」


レオナルドが何か言いかけた時、突然ヴィオラが慌てたように会話に入ってきた。


「あ、あのね、それは私がイザークに頼んだのよ。一緒に連れて行って欲しいって! イザークは始めはひとりで『アネモネ』島に行こうとしていたのよ。それに同じホテルに宿泊しているけれど、部屋は別々だもの。そうよね? イザーク」


「そうだ。別に俺たちはやましいものは何も無い」


何故か必死な様子のふたりにレオナルドが尋ねる。


「別にそこまでのことは聞いてはいないが……彼女はレティシアの友人だから心配で捜しに来たというのは理解した。けれど、君は何故レティシアを捜しに来たんだ?」


それは私も疑問に思っていたところだ。

私はじっと彼を見つめると、イザークは気まずそうに視線をそらせる。


「それはレティを心配したからよ。何しろ彼とレティは三年間同じ美化委員会だったのだから」


「ふ〜ん……なるほど、そういうわけか。それで君たちはいつまでこの島に滞在する予定なんだ?」


レオナルドは何か納得したかのように頷くと、ヴィオラとイザークに尋ねてきた。


「い、いつまでって言われても……」


「レティシアを探すことしか考えていなかったからな……期間は決めていなかった」


「え? そうだったの?」


ふたりの言葉は驚きだった。

まさか期限も決めずに『アネモネ』島へ来ていたなんて思いもしなかった。けれど、それだけ必死で私を捜しに来ていたのだろう。


「本当にごめんなさい……落ち着いたらヴィオラに手紙を書こうと思っていたの。それで、今日はレオナルド様とレターセットを買いに来ていたのよ」


チラリと横に座るレオナルドを見た。


「そう。……レティは……その、そちらの方と親しいの……?」


ヴィオラが妙なことを尋ねてくる。


「そうだな。血は繋がっていないけれど親戚だからな」


レオナルドが私に笑顔を向けてくる。


「そ、そうなのね……」


何故かヴィオラの歯切れは悪いし、イザークは先程から無言で俯いている。それに元気もないようだ。だから私はヴィオラとイザークにお礼を述べることにした。


「本当にごめんなさい、ヴィオラ。イザーク。……でも、嬉しかったわ。そんなに心配してくれていたなんて……それに、私の居場所を探し当ててくれるなんて」


「え? レティシア。……もしかして、本当は自分の居場所を見つけ出してほしかったのか?」


イザークが顔を上げた。


「あ……」


その時になって、私は気づいた。

本当は心の何処かで、誰かに私の居場所に気付いて貰いたかったのかもしれない。


お父様……


そして無意識に、父の顔が脳裏に浮かんだ――







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