第5話 少女はボクを知りすぎている。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
えっと……。彼女はボクに今、なんと言ったのだろうか……。
錦田さんは、ボクから視線を逸らさずに、優しく微笑んだままでいる。
―――ずっとずっと優一さんのことが好きだったの。
―――私とお付き合いしませんか? きっと最良なパートナーになれそうだから。
錦田さんの言葉が、ボクの頭の中で反芻される。
うん。間違いない。ボクは今、彼女に告白というものをされたらしい……。
「……どぅぇえええぇぇぇえぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!?!?!?」
「うーん。とっても古典的な驚き方をするんだねぇ……」
錦田さんは落ち着いた様子で、「ふふふ」と微笑みながら、ボクのほうに近づいてくる。
「私、あの受験の日からずっと君のこと、気にかけてたんだよね」
「ええっ!? 入試のあの日からですか!?」
いやいや、普通に何の取柄もないボクに一体、何の興味を示せるというのだろうか?
暇人なのだろうか……。いや、そこまで言うのは失礼にあたるかもしれないけれど。
「ここで、キスしてもいいんですよ?」
そういって、彼女はボクの頬に手を添える。
ボクの心臓は早鐘を突くようにドキドキと高鳴っていた。
「そ、それはまだ早いです!」
「え? そう……かな?」
「はい。錦田さんがボクなんかを好きになってくれたのは凄くうれしいです。でも、ボク自身、すぐにお答えできないというか……」
「どうして?」
彼女はコクリと首を傾げて、ボクを覗き込む。
うーん。いちいち可愛い。行動が可愛い。何? この可愛い生き物は………。
「ボクのことを錦田さんはいろいろと知ってくれているんですか?」
「うん! もちろんだよ! じゃあ、放課後にもう少し話をしましょう! 今は、先生の用事を済ませなきゃね!」
そういうと、彼女は踵を返して、職員室に向かっていった。
彼女の手は、柔らかかった。けれど、何やらぬくもりはそれほどでもなかった。
放課後になり、麻友は部活動があるからと言って、教室を足早に出て行った。
教室には、生徒も少なくなり、錦田さんがカバンに教科書などを入れる。
そして、それを背負うと、ボクのほうに駆け寄ってくる。
「じゃあ、行こっか!」
「う、うん」
周囲からは稀有な目で見られているような気がする。
そりゃそうだろう。学年一の清楚可憐な美少女が、教室でも存在感の薄い(……けれども、学級委員長なんだぜ、これで)ボクに対して話しかけているのだ。
ん? 別に学級委員だからそれが普通だって?
そう思うかもしれない。だが、彼女は放課後はまっすぐ家に帰るのが、普段の行動なのだ。
それなのに、今日に限って、ボクに声をかけている。
だからこそ、周囲にとっては「あの錦田さんが、あの河崎に話しかけている」というのは、クラスにとってもビッグニュースなのかもしれない。
と、言っても、ボクから告白したんじゃないですからねぇ~。
放課後のカフェテラスは、普段使っているそれとはまったく異なる景色になっている。
グラウンドを見下ろせる高台にあるカフェテラスはオレンジの陽光を受けていた。
「んふふ。すっごくロマンティックな場所ね。優一さんがここを奨めてくれたのは、これからの伴侶としては及第点に値するわね」
「それはありがとう。本来なら、どこに行きたかったの?」
「そうねぇ。屋上とか、誰もいない教室とかなら、エッチなこともできて最高じゃない?」
「さっき告白されたばかりなのに、いきなりそっち!?」
「んふふ。最近のカップルはスピード感があるって、どこかの雑誌に書いてあったわ」
いや、それは明らかに経験者にしか聞いていない統計だと思う。
なんとも無意味な統計学の数字だなぁ……。
「スピード感があっても、即エッチは問題があると思いますよ!」
「そ、そうね……。まだ、キスすらしていないものね……」
「まだ、ボクは返事すらしてませんけどね……」
「いや、普通、こんなにも清楚可憐で学年一可愛い美少女に告白されて振るとか、どんなメンタルしてるのよ」
「それ、自分で言っちゃうんですね……。まあ、錦田さんはボクから見ても可愛いと思いますよ」
「あぁん♡ 優一さんから可愛い、頂きました!」
いや、テンション高いな……。普段見せている姿とは似ても似つかないな。
「で、本題に移りますけど」
「あ、そうね。確か、私があなたのことをどれだけ知っているか、だよね?」
「ええ、そうです。じゃあ、色々と質問していいですか?」
「うん、かまわないよ!」
屈託のない笑みでボクからの質問を受けようとする。
すっごい余裕すら感じる。
「では、行きますよ。好きな教科は?」
「日本史! 百点取られちゃったら、私でもあなたには勝てないもの!」
まあ、返却の時に見られたのかな……。
「好きな食べ物は?」
「鰻! 鰻重よりは白焼きのほうが好きで、必ず肝も食べちゃうなかなかの通な感じ!」
へぇ……。すごいなぁ……。
「嫌いな食べ物は」
「漬物関係。浅漬けも食べたがらない」
もしかして、食事しているときに見られたのかな……。
「足のサイズは?」
「25.5センチ!」
ま、まあ、下駄箱を見ればわかるかな……。
「好きな映画は?」
「第二期まで放送されて、映画化も確定した『五等分の許嫁』!」
え、アニメにまで精通しているの!?
「家族構成は?」
「お父様とお母さま、あと1歳年下の妹ちゃんがいるよね。でも、あなたは今、一人暮らししてる!」
え!? なんでそんなこと知ってるの!?
「な、なんだかいろいろと知っていますね」
「当然じゃない! 私はあなたのことが大好きなんだから!」
カフェにはボクら以外にも生徒はいるのだが、あまり錦田さんには、それほど気にしていない様子だ。
とはいえ、好きなのはわかるけれど、何だかストーカーに近くないかな……。
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