第7話 少女から同棲を希望されました。
えっと……どうして、ボクは今、千尋さんと一緒にマンションのエレベーターに乗っているのでしょうか……。
チラリとボクは横に視線を送る。
癖のないロングストレートの黒髪。透き通るような白い肌。ルビーのような紅い瞳。ほのかにピンクがかった唇。
て、ボクは何を見ているんだよ!
だ、ダメだ……。余計なことを考えてしまいそうだ。そ、そりゃ、ボクだって高校一年生の健全な男の子なんだから、少しはそういうものに対しても興味を示したりすることもある……。
あれ―――――?
ボクは少し不安がよぎる。
自分の部屋は果たして、女の子が入っても大丈夫な状態だっただろうか……?
えっと、エッチな本とかはちゃんと、片づけてあったと思う。
「んふふ。今日から一緒に生活できるんですね!」
「あ、はははは……。怖くないんですか?」
「え? 何が?」
千尋さんはキョトンとした瞳でボクのほうを見てくる。
「ほ、ほら、ボクだって高校生の男の子なんですから!」
「………あっ♡」
あれ? ちょっと今の声、おかしくなかった?
千尋さんは、頬を赤らめながらボクのほうを見つめて、
「そ、そうですよね……。ある意味で今日は『初夜』なんですものね……」
「いや、その恥ずかしがり方はおかしくないですか!?」
「え? でも、話題を振ってきたのは、優一さんのほうですよ?」
「あ、そ、そうですけれど……」
「私、優一さんのことを信用しているんですよ。優一さんはいきなり私に手を出したりなんかしないって」
それはボクがそういう勇気が足りないといいたいのだろうか。
それとも、本当にボクのことを信じてくれているのだろうか。
どちらにしても、彼女はボクのことを本当に信じてくれているようだ。
「もちろん、初夜ですから、エッチなことをしたいのであれば、いいんですよ。私の裸体を隅から隅まで視姦していただいても……」
「し、視姦!?」
チ―――――――ン。
ボクが素っ頓狂な声を上げた瞬間に、ボクの部屋のある階にエレベーターが止まる。ボクの魂が抜けだそうとする状況の効果音にばっちりだったよ……エレベーターよ。
ボクの部屋は11階だ。
「もちろん、一緒に住むわけですから、見たい放題ですけれどね。キャッ♡ えっちぃ~」
絶対にわざと言って、ボクをからかっているんだな。
ボクはそう認識することで、湧きあがりかけた欲望を何とか抑え込む。
さっきの「視姦」って言われたとき、ボクの耳元で囁くように言ってきた。
あれはマジでやばかった。下半身に血流が大量に流れ込みそうになった。
「あ、あの部屋が私たちの愛の巣ですね」
「あ、愛の巣って……」
彼女がボクの部屋を見つけられるのには訳もない。
ボクの部屋の前には、愛くるしい羊の絵が描かれた引っ越し業者の大きな段ボールの荷物が5つほど積み上げられていたのから。
「さあ、行きましょう!」
千尋さんはそう言うと、ボクの手を握って一歩を踏み出す。
ボクは咄嗟に握り返したが、何だか指を絡めるような手の握り方になった。
「まあっ! いきなり恋人つなぎをご所望だなんて、私、とても嬉しいです! さすが、優一さん、私の乙女心を最初からギュッと掴んできますね!」
どうやら、恋人つなぎが正解だったようだ。
いや、そもそも彼女いない歴=年齢のボクにとって、恋人関係とはどういうものかという疑問に対する明確な答えなど、当然ながら持ち合わせていない。
と、なればやることはひとつだけだ――――。
千尋さんが喜ぶであろうことを率先してするしかない。
「ま、待ってくださいよ~」
「こうやって一緒に時間を過ごすことで、きっと優一さんも私のことをもっと知ってもらえると思うの」
「あ、でも、これから本当に同棲するんですよね?」
「そうですよ。もっともっと私のことを知っていただくためですから!」
少しあざとらしく彼女は、ぶりっ子のように握りこぶしを作って言う。
だが、ボクにはそれがあざとらしくというよりは、柔らかそうな膨らみをムニュンと押しつぶしたようにしか見えない。
あ、ダメだ……。この人、意識してか無意識か知らないけれど、いちいち言動がエッチぃんですけど。
「そういえば、お部屋に空きってあったりしますか? なかったらお部屋も一緒にしてもいいんですけれど……♡」
「え、あ、うん。あるよ」
「あ、そうなんですね………………チッ!」
あ、今、チッって舌打ちしましたよね!?
ボク、見逃しませんでしたよ!
「じゃあ、優一さんの隣のお部屋をお借りできれば嬉しいんですけれど」
「ああ、構いませんよ。ちょうど、横は使っていない部屋なので、今すぐ部屋としても使えますから」
そう。ボクの部屋の他は、両親の部屋と妹の部屋だ。
妹の部屋は、さすがにいじると問題がありそうだから、両親の部屋を貸してあげれば問題ないと思う。
「もともと両親が使っていた部屋だから、ベッドもあるから、千尋さんの荷物を運びこんだから、すぐに部屋を使ってもらえると思うよ」
「へぇ~、優一さんのご両親が使っておられた部屋なんですね……」
彼女は意味深に微笑む。
ボクはその時、まだこの後起こることを考えもせずに、彼女にその部屋を貸したことに気づいてはいなかった。
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