第13話 少女は本性を現す。
その日が格段暑いわけではなかった。だが、どうしても、横に女の子と一緒に寝ているということを意識してしまうと、ボク自身が熱くなってしまう。
いや、どこが、とか野暮なことは訊かないで欲しい。
寝始めてから数時間経った時、不意に目を開けると、そこには超絶美少女の姿があって、寝息に触れてしまいそうな感じだった。
そして、柔らかい唇――――。
あまりにも無防備な美少女が今、ボクの目の前に寝ている。着ているパジャマからは胸元が見えそうで見えない。
いや、まだ、ボクから返事をしていないのに、これではただの変態じゃないか!
そんなことしたら、犯罪で逮捕されてしまう。
ボクは何とか理性を正そうと必死になる。
が、起き上がったものは、そう簡単に落ち着いてくれる様子はない。
とはいえ、今からお手洗いに行けば、間違いなく、千尋さんが目を覚ましてしまうだろう。
それは彼女には可哀想だ。
「仕方ない……。このまま寝るか……」
ボクは目を閉じる。
賢者ではないが、何というか、無心になれば、あまりエッチなことを意識から消すことはできるようだ。
「………う~~~~~~~ん……」
千尋さんが唸るような寝言?とともに、寝返りをうつ。
ドサッ!!!!
「―――――――――――――!?!?!?」
ボクは突如、胸元に腕を叩き込まれて、一瞬息をすることを忘れてしまう。
悲鳴にならない悲鳴をあげつつ、痛みに耐える。
が、そのあと、ボクは驚きの感触を味わうことになる。
チロチロチロ……………
首にむず痒い感触が走る。不快……というほどではないが、こそばゆくてムズムズする。
ボクが目を開けて、そちらに視線をやると、
「――――――えっ!?」
ボクは今、清楚可憐な美少女にボディピローのように抱かれ、それだけでも幸福の絶頂と言っても過言ではない状況にあるにもかかわらず、彼女がボクの首をペロペロと舐めているのである。
「こ、これはどういうこと!?」
いや、色々なことに対して、この言葉を送りたい。
まず、どうして彼女がこのように抱きしめてきているのか?
次に彼女の胸がボクの腕を挟んでいるようだけど?(け、結構大きいっ!)
首筋を舐めるのはどういう性癖なのか?
そんな彼女の吐息がハァハァと若干興奮気味に見えるんだけど?
それを証明するように頬が朱に染めているようだけど?
そしてボクは気づいた。
「あれ? 彼女の八重歯ってこんなに肉食獣の様に尖っていたっけ?」
てか、これって噛まれる―――――!?
刹那、ボクは逃げきれないと悟り、噛まれる覚悟をして、痛みに耐えようと歯を食いしばる。
が、痛みは待てど暮らせど感じることはなかった。
「やっぱり見張っておいて正解でしたね」
「麻友!?」
「あんたねぇ~~~~~~~~~~!!!」
「千尋さん!?」
いつの間にか、麻友によってベッドから引き剥がされた千尋さんは、睨み合いを続けていた。
「折角、もう少しでしたのに! もう少しでしたのにぃ~~~~~~~~!!!」
千尋さんが悔しそうに地団駄を踏んでいる。いや、真夜中なんで下の階のこともあるので、本気で止めてほしい。
勝ち誇ったような笑みを浮かべている麻友は、
「んふふっ! きっと我慢の出来ないあなたのことだから、今日、本性を見せると思っていたのよ」
「ふんっ! が、我慢はしましたわ! 優一さんのフェロモンに何度、失神してしまいそうになったか……」
ええっ!? そんなに―――!? 結構、近くに一緒にいたけど、それにキスもしたし……。
「キスをしたときなんか、もうそれだけで達してしまいそうだったしね」
いや、凄くエロいよ……、それは。
それよりも目の前にいる二人の服装に問題があるのではないか。たしか、さっきまでは千尋さんもパジャマを着ていたはずだ。それなのに今は…………!?
麻友は、肌の露出面積が大きく、大きな胸と恥部だけが布あてのようなもので隠された大半がひものようなデザインの黒い水着を着た茶髪の美少女。何やら頭の上に、角のようなものが見え、それにお尻のほうから先がハートの形をしたしっぽのようなものがふにょふにょと泳いでいる。
千尋さんは、ゴスロリもびっくりのような黒のフリルがあらゆるところにデザインされたロング丈のドレス(しかし、胸のところは大きく割れていて、豊満な胸はこれでもかと強調されている!)を着た黒髪美少女。こちらも頭から角が生えているようだし、さっきのが見間違え出ないとでもいうように、八重歯が普通より鋭くなっているようだ。
「「ねえ、私たちのどっちがいい?」」
「ひぃっ!?」
ボクは思わず小さく悲鳴を上げてしまう。
ボクは後ずさり、ベッドに押し倒されたように仰向けに倒れてしまう。
「それにしても、まさか、あなたがここに来るとは思ってもいませんでしたわ」
「あら? それはあたしも一緒。優一がまさか、この女にあっさりとほだされてしまうなんて……」
「何よ! 私は普通にお付き合いをすることにしただけよ。もちろん、私のメリットからね」
「ふんっ! 千尋は優一のことをそうやってモノとしてしか見ていないの?」
「あらあら、それは嫉妬しているの、麻友?」
「なっ――――!?」
「あら、図星かしら? 私は優一さんの優しさをずっと見てきたの。確かに麻友のほうが、友達としての付き合いは長かったのかもしれないけれど、声すらかけなきゃ何も始まるわけないじゃない。それこそ、食パンでも咥えて、遅刻間際に叫びながら走ってみたりしたの?」
「はぁっ!? そんなの何十回もしたわよ! 古典的だとは感じていたけれどね」
「え………。本当にやったの? それ、虚しくなかった?」
「いや、ここで真面目に聞き返すのやめてくれない? 心が傷つきそうだから……。と、とにかく、優一は渡せないわ!」
「それを言うなら、こちらも同じよ。優一さんは私とお付き合いをすることになったの。たとえ、あなたの人生に関わってくるとはいえ、これは私とそのご主人様である優一さんとの愛の物語にモブはいりませんの」
「あーっ! 今、あたしのことをモブって言ったわね!」
「そうよ……。だって、これから、私は優一さんと愛を育んでいって、最終的には愛の結晶を……そうね、できれば男の子と女の子の一人ずつ欲しいかしら……」
千尋さんはうっとりとしながら、頬を赤らめつつ、酔いしれるように語っている。
「とにかく、私としては人生設計計画に則って、優一さんとまずは……け、眷属としての契約を………」
あ、結婚じゃないんだね?
ボクは思わずツッコミを入れそうになるが、ここで入れようものなら、ボクの人生が終焉を迎えそうに感じたので、敢えて突っ込まないでいた。
「だ、駄目よ! 優一とはあたしと奴隷契約を結ぶんだから!」
眷属と奴隷……。いや、どっちも従わされる側じゃないか!
「ちょ、ちょっと……これは一体?」
ボクは訳が分からず、言葉に出す。
すると、彼女たちは妖艶な微笑みを浮かべて、ボクにキスしそうな勢いで迫ってきた。
「「簡単なことよ。どちらに吸われるか、ってこと」」
「す、吸われる!?」
どうやらボクの平穏無事な高校生ライフを送れるようなことはなかったようです。
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