第47話 少年は少女に強引にキスをする。

「千尋………」

「優一………」


 私は今、すごくドキドキしている。

 だって、だって、目の前に優一さんが―――――。

 ああ、もう、胸がキュンキュンッ言ってる~~~~~~!

 もう、抱いて! 抱いてくれていいかも!?




 試着室の出来事は、声をかけられたものの優一さんだけが顔を出して、対応したこともあって、難を逃れた。

 買うべき優一さんの服もきちんと買えて、私たちは再びショッピングを始める。

 とはいえ、周囲への注意も怠らないようにしつつだけど。一応、伊達メガネをサクッと雑貨屋で購入して、つけているので、簡単な変装はしてある状態だ。

 しかし、彼らは明らかに私を見つけるために血眼になっているように思える。

 てか、どうして、今日、私がここに来ていることがわかったのだろう。

 もしかして、麻友からの密告?

 でも、麻友は私をお父様に売り飛ばすようなことはしないはず。

 そうなると、どうして今日、ここに私が来ていることが分かっているのだろうか。

 宿泊名簿を見ることができた? 可能性がないわけではないが、それは犯罪すぎるだろう……。


「それにしても、どうやら君のお父さんは相当話がしたいみたいだね」

「ええ、本当に粘着質な嫌なお父様です」

「ボクをちゃんと夫として認めてもらえるかなぁ……」

「夫………(プシュー)」


 もう! 急にそんな私が嬉しくなっちゃうことを言わないでほしい!

 私は顔を真っ赤にして、俯いてしまう。


「ボクは会っておきたいとおもうんだけど、でも、千尋さんが家に連れ戻されちゃうんだったら、会わない方がいいかもしれないね。でも、これって駆け落ちして逃避行しているような状態じゃない!?」

「まあ! それは素敵ですね!」

「いや、映画的にはそうかもしれないけれど、現実はそう甘くないでしょ!?」

「あ、はい。それは重々承知の上ですよ……、もちろん」

「それにしても、本当にどうすればいいんでしょうね」

「まあ、どのみち捕まっちゃうかもしれませんが、お父様に対して素直に観念したくないですね」

「それはまた難しい我が侭だよね……。そんなに恐ろしい方なの? 君のお父さんというのは……」

「いや、普通に気に入らない相手を殺害しちゃうようなお父様を恐ろしくないなんて嘘でも言えませんよ?」

「うーん。まあ、確かにそうだよねぇ……」


 さすがに殺されたくないですものね?

 てか、そんなことしようものなら、私が許しませんけどね。本気で父親殺しをやっちゃいますよ!


「とにかく、面倒なのでお父様には会わない方向で……」

「千尋さんがそこまで言うならば、ボクもそうするよ。でも、捕まったら素直に行動しようね。命大事にだからね」

「はい。さすがにお父様にデスゲームを要望したりしないようにします」

「え!? そんなことしようとしてたの!? 明らかにボクが巻き込まれてしまうよ!?」

「あ、大丈夫です。優一さんは私が守りますから」

「あ、そう……。それは何とも、心強いねぇ……。ところで、前から来ているあの人たちって、もしかしてもしかする?」

「あー、そうですね……。明らかに相手は目立ってますね……」


 夏だというのに、黒いパーカー姿をした大人が二人、こちらに向かって歩いてくる。

 キョロキョロと周囲を見渡している感じからすると、まだ、私たちには気づいていないみたい。

 とはいえ、このまますれ違うのは危ないような気がするんだけど……!?


「そこの角を曲がろう!」

「えっ!?」


 私は彼に引きずり込まれるように、そのまま脇道に引き込まれる。ちょうど、トイレへの脇道になっていて、角を曲がったところには自販機があり、その奥に私を押し込むように彼が隠れ蓑になってくれる。


「千尋………」

「優一………」


 私は今、すごくドキドキしている。だ、だって、優一さんが私の名前を呼び捨て――――!? これだけで破壊力が半端ない!!

 そ、それに、目の前に優一さんが迫ってくる~~~~。(破壊力×2倍)

 ああ、もう、胸がキュンキュンッ言ってる~~~~~~!

 もう、抱いて! 抱いてほしいかも!? て、何を考えてるのよ……、私は!

 で、でも、このままいけば―――――。

 私はそう思うと、彼に身を任せるように目を閉じる。


「やさしくしてね……」

「………うん」


 ちゅっ♡

 ちゅぱ、ちゅっちゅ、ちゅぱちゅぱ………

 ど、どうしよう!? 優一さん、すごく積極的なんだけど……。


「んんっ♡」


 舌を強引に絡められた瞬間、私の体がビクビクッ! と反応する。

 そして、唇が離れると、私は自然と蕩けた表情をしていた。

 もう少ししたかった、そんな甘えた表情をしていたに違いない。


「可愛いよ……」


 彼はそういうと、私の耳に軽くキスをして、再び唇を重ねてくる。

 あまりの積極的な優一さんの行動に、私の体はいつのまにか気分が高揚し始めていた。

 今なら、このままベッドに入れたら、間違いなく眷属にしてあげりゅ♡

 理性なんかふっとんじゃいそうに気持ちよかった。


「しゅきぃぃぃぃ……♡」


 私が本気でそんな言葉を漏らした時には、すでに私への追手の声は、その場から遠くなっていた。

 何とか救われた、と私は思った。

 とはいえ、私の心はすでに優一さんの虜になってしまっていたのだけど。

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