第48話 少女は少しの間トリップする。
ボクはふぅ……とため息をつく。
とはいえ、少しばかり大胆な行動をしてしまったような気がする。
彼女を無理やり脇道に連れ込んで、そのままキスをしてしまうなんて……。
何とかやり過ごすためとはいえ、演技としては絶対に彼女には引かれちゃっているだろうな……。
「ご、ごめんね」
「……な、何がです?」
あ、やっぱり少しショックを受けているのかも……。
彼女はなかなか顔を上げようとはしてくれない。
「いえ、追ってから匿うためとはいえ、ちょっと無理やりすぎて、千尋さんにショックを与えちゃったかな……て思いまして」
「あ、はい……」
ほら、やっぱりショック受けちゃってるよね。
そりゃそうだよね。今まで大人しそうだったボクが突然、こんなことをしたら、彼女だって、怖がっちゃうよね……。
「今後はこういうことは―――――」
「してほしいです!」
「え?」
ボクが呆気にとられていると、彼女はおもむろに顔を上げる。
何だか瞳がハートマークになっていて、頬が朱に染まっているような気がするのだけれど……。
「も、もっと、ああいう激しいのお願いできませんか? 私、優一さんに突然キスされて、脳髄に物凄く衝撃が走りました。体も素直に反応しちゃって、ちょ、ちょっと濡れちゃってます」
「ひ、卑猥ですね……」
「ああっ!? ご、ごめんなさい……。こういう公衆の面前で言う言葉じゃなかったですね……。でも、私、きっと優一さんからこうしてもらえることを求めてしまっていたのかもしれません。さあ、今からホテルに行きましょう! 今ならば、すぐに眷属のための契りができそうです!」
彼女は一大決心のように拳を握りしめて、ボクに迫ってくる。
いや、ちょっと待って!?
どこがどうしたら、いきなり眷属への契りになっちゃうの!?
まだ、キスしただけだよ!?
「あ、でも、今日はまだショッピング中なので……。それにもうすぐ昼食の時間ですから、そろそろどこかでランチを取りませんか?」
「あうぅ……。優一さんは私の眷属になりたくないのですか?」
「いや、なりたいとは思ってます。でも、こんな真っ昼間から、やるものではなくて……。もう少し、ムードのある状況で……、その千尋さんとの初めてはしたいです……」
ボクは思わず視線を逸らして、恥ずかしくなって照れてしまう。
彼女はというと…………。
ボンッッッッ!!!
何か爆発するような音とともに、脳天から湯気だっている。
「あ、あ、あ、あ…………」
言葉を失ったかのように、口をパクパクしながら、どうすればいいのか分からないような状況に陥っていた。
「む、ムードのある場所で、私を抱いてくださるんですね?」
「はい! きっとホテルからの景色とかも良さそうじゃないですか?」
ボクはにこりと微笑みながら、彼女にそういうと、
「突如の青姦!?」
「え?」
「あ、いえ、お気になさらないでください……。普通にベッドから見える景色ってことよね……。ま、まさか、あの広いテラス…………」
———ほら見てごらん? 満天の星空がボクらを今、見ているよ?
———い、いやですわ!? 私、そういう趣味はありませんの!
———でも、体は素直に反応しちゃっているよ? 星空たちがボクらを祝福してくれているんだ!
———ああっ! そんなことを言われたら感度がさらに高まっちゃいますぅぅぅぅっ!
「うへ……うへへへへ……♡ そ、それはいいかも……」
「もしもし? 千尋さん? どうしたんですか?」
「あっ!? い、いえ……なんでもないですよ……。ちょっと……ちょ~~~~~~っとだけトリップしてしまってただけです」
「そ、そうですか……」
ちょっとばかり、清楚可憐さがどこかへ吹き飛んだようなそんな表情をしていたのに、ボクは驚きを隠せなかった……。
千尋さんはたまにそういうことがある。
どうも、妄想癖があるとか麻友は言っていたけど、清楚可憐を貫き通しているあまり、ストレスが溜まって、ぶっ飛んじゃうことがあるらしい。
まあ、それはそれで大変だが、ただ、そのぶっ飛んだことをリアルでしようとしてくることがたまにあり、その対象が必ずボクなので、ボクの理性もざわついて仕方がない。
「こほんっ! 分かりました! まずはお昼間はしっかりと優一さんとのデートを味わいたいと思います! 夜はしっぽりと愛してくださいね♡」
「あはは……お手柔らかに………」
ボクの背筋には悪寒が走った。
うん、これはきっと普通では終わらないという予言のようなものだ。
明らかにフラグが立ったのではないだろうか……。
「それよりも、下着の替えはもっているんですか? さすがに気持ち悪いのではないですか?」
「あ、そうですね……。では、ちょうどいい場所なので、このまま少しお手洗いに行ってきます」
「うん。そうすると良いよ」
彼女はそういうと、バッグと先ほど運よく(?)購入していた、下着をもってそのままトイレに向かっていった。
そして、ボクはこの数分後、戦慄が走った。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
明らかに千尋さんの悲鳴が上がったのだ。
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