第49話 少女の実力(物理)。
ボクが千尋さんの叫び声を聞いて、即座に走り出した。
周辺の人たちも何が起こったのか? と不安そうにこちらを見ているが、今はそれを静止している状況ではないのは明らかであり、まずは彼女のもとへ急ぐことが先決だ。
「どうしましたか!?」
ボクは角を曲がったところで、威嚇の意味も含めて大きな声でそう叫ぶ。
すると、千尋さんの前に立ち塞がっていた大きな男は少しだけ怯む。
そのすきにボクは彼女のもとへと寄る。
「だ、大丈夫ですか?」
「え、ええ、まあ、大丈夫です」
「この方と知り合いですか?」
「まあ、すっごく知り合いですね……」
「おいっ! 千尋さんに何をした?」
ボクは再び威嚇の意味も込めて、大きめの声で叫ぶ。
とはいえ、あまりここに長居すると警察も来て、大きな問題になりそうなので、できれば早めに解決したい。
ボクが叫ぶと、隣の千尋さんが目を丸くして、ボクの方を見つめてくる。
ん? もしかして、普段のボクとは違うから驚いているのだろうか……。
「お前は誰だ?」
「ん? いや、何でいきなり知らない人に名前を名乗らないといけないんだ?」
「ふんっ! まあ、どうでもいい。とはいえ、これは私たちの問題だから、お前は関係のない話だ」
「いやいや、普通に関係なくはないだろ。そもそもボクの恋人が悲鳴を上げているんだから、助けに来るのが当然だろうが!」
「こ、恋人!?」
前の大男の顔に焦燥が浮かび上がる。
あれ? 何か問題発言でもしたのだろうか……。
「千尋よ……この男はお前の恋人なのか……?」
大男は千尋さんの方を向き、伺う。
千尋さんは起き上がると、両手を腰に据えて、怒りを抑えるように話し始めた。
「ええ……そうよ。優一さんは私が見つけた運命の人……。もう、私と優一さんは同棲も始めているの」
「ほ、ほう……。そうだったのか……」
「そう。それにね、今日と明日は二人で初めてのデートも含めた旅行を満喫しようと思って、こうやってリゾート施設に来てるわけ」
「なるほど、それは奇遇だな……。私も旅行だよ……」
「あら、そう……。でもね、折角幸せな雰囲気だったっていうのに、なぜか追手の人たちが私たちの前に出てくるわ、誘拐まがいな行動まで起こされるわで、私としてはそろそろ限界なのよねぇ……」
えっと、すっごく怒ってるよね……。
と、同時に目の前の大男も少しずつ後ずさりしているような気がしないでもない。
「お、落ち着け……。べ、別に悪気はない!」
「悪気がなかったからって、私たちの邪魔しないでよね! お父様!!」
「お父様!?」
ボクが驚きの声を上げた。
刹那、彼女は踏み込みと同時に繰り出された右ストレート(何だか、腕に黒い炎がオーラのように包まれているような気がするが……)が大男の腹に繰り出される!
「ぐるぅおっ!?」
大男はうめき声をあげると同時に、後ろに弾き飛ばされていた。
えっ!? 何それ!? 千尋さん、強すぎない!?
て、明らかにバレるでしょ!?
「ち、千尋さん!? これはさすがにまずいのでは!?」
「え? あ、はい……。まあ、大丈夫です。一応、ここ、結界を張って、亜空間にしてありますので、ここの中で破壊されたものは、術師が死なない限り、元の形に自動的に修復できますので」
「あ、そうなんですね」
「はい!」
いやぁ、あのぶっ飛ばしを見せつけられた後に、彼女の笑顔は怖すぎる。
ボクは彼女に逆らっちゃいけないなぁ……、といまさらながら感じた。
「あ、今、私のこと怖いと思いましたね? 大丈夫です。優一さんにはこんなことしませんから。そもそもお父様だから、こういうことをしただけです」
「いやいやいや! お父さんにこそしちゃいけないでしょ!?」
ボクのお父さんにこんなことをしたことなど一度もない。
いや、あってたまるものか……。そもそも、こんなことをしてしまったら、死んでしまうに決まっているじゃないか!
「さて、と」
千尋さんは表情を再び、冷徹なものに変え、そのままぶっ倒れているお父さんの方へ向かっていく。
「で? 訊いてもいいかしら? どうして、私の邪魔をするの?」
「う……うぐっ。お、落ち着くんだ……千尋……!」
「えっとぉ……仕掛けてきたのは、お父様のほうだよね? どうして、私が加害者みたいに扱われているのかなぁ~?」
うわぁ。後方から見ていても怖ぇ……。
そもそも吸血鬼というのは人間よりも力が強いと言われているのは、本当だったようだ。
てか、強すぎるでしょ……!?
眷属になったら、ボクもこういう力を持ててしまうのだろうか……。
うん。要らないね!(現実逃避)
「千尋ちゃん!? パパは謝るから許して!」
「本当に? 優一さんに危害を加えたりしないわよね?」
「く、加えたらどうな————」
「———消すわよ?」
「ごめんなさい。」
あ、即謝りしてる。お父さんが勝てない千尋さんって一体何者?
謝罪を確認した後、千尋さんはボクの方に駆け寄ってくる。
えっと……こういう場合はどう声をかけてあげればいいんだろうか……。
「えっと……」
「怖かったぁ~~~~~~」
彼女はボクを抱きしめると同時にそう叫んだのだった。
もちろん、ボクとお父さんの心はこの時、初めてシンクロしたと思う。
———いや、あんたの方が怖ぇ~よっ!!!
と。
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