第140話 淫夢魔嬢王は誘惑がお上手♡

 うっすらを目を開けると、そこはコンクリートのような天井が目に飛び込んできた。


「知らない天井だ……」


 うん。アニオタが言ってみたい台詞ベスト100に入っているであろう言葉を無意識で漏らす。

 温度としては適温ではあるが、掛けられているものが頼りない。

 羽毛布団をご所望することはないが、明らかに布切れ一枚といった感じだ。

 ボクはムクリと起き上がり、周りを見渡す。

 ここは牢獄なのだろうか?

 部屋にドアは1つ設置されているが、外が見えるわけでもない。

 それ以外は窓がなく、道具となりそうなものは何もない。

 それにしては天井のすべてのタイルの部分が光を出しているのか、優しく包み込まれるような明るさを保っている。

 病室とも見えるが、むしろ軟禁状態といったところだろう。

 天井からもカーテンレールなどがないのは自殺防止用のためなのだろうか……。

 まあ、自殺する気もないし、ボクは何としてでも千尋さんの元に戻る手立てを探るつもりだけれど……。


「そっか……。ボクは連れ攫われたのか……」


 あの時の嫌な気持ちが脳裏によみがえる。

 ああ、気分が重くなってしまう。

 と、同時に空腹感を覚える。


「そっか。何も食べてないな……」


 腹をさすろうとしたときに、あることに気づく。

 顔面からサーッと血の気が引く。

 そう。どうしてボクは今、裸なのだろうか……。

 掛けられていた薄い布切れを浮かせて、下半身を確認する。

 うん。パンツすらない。


「うわぁぁぁぁっ!? 何でボク、全裸なの!?」

「五月蝿いです」

「うわぁぁぁぁっ!?」


 耳元で女性の声がして、ボクはベッドから飛び退く。

 ナース姿をしたお姉さんがそこには立っている。

 とはいえ、冷静に見れば明らかにコスプレであることが良く分かる。

 清楚可憐なナースさんではなく、胸元が開いたエロナース仕様であることくらいすぐわかる。


「優一様? 何を怖がっておられるのですか?」

「い、いや、だって、ボクはあなたのことを知らないよ?」

「あら? もしかして、アノ時は記憶が定かではなかったのですか……?」

「どうやらそのようです……。って、アノ時とは?」

「まあ、記憶がないのでしたら結構ですけれど……。私のおっぱい、気に入っていただけていたみたいでしたので。私はナアムと申します」


 えーっ!? なんだって!?

 ボク、このナアムって女の子のおっぱいに何かしたの!?

 ボクはちらりとナアムの胸元に視線を向けてしまう。

 エロナースコスプレのはだけた部分から見える胸元……。谷間がガッツリと見えている。


「よいしょっと。優一様が飛び出されたので、ペンとかが落ちてしまいましたわ」

「あっ! ボクが拾います」


 と、ボクがしゃがんで拾おうとすると、そこに彼女も拾おうとする。

 が、ボクはこれが罠であったことにすぐに気づく。

 ナアムはしゃがまずに腰を曲げてそのまま拾い始めたのだ。

 つまり、ボクの前にはエロナースのお姉さんの胸が暴力的に揺れているのだ!?

 こ、この揺れ方……。プラジャーを付けてないのか!?

 ボクは思わず硬直してしまう。

 いや、見たかったわけではなく、下半身が突然、ものすごい勢いで「オス」となったのである。


「あら? ありがとうございます」


 ボクの方こそ、貴重なおっぱいを拝ませてもらえて、感謝の言葉を述べたくなる……。

 て、何してるんだよ!?

 ボクには千尋さんがいるじゃないか!

 どうしてこんな気持ちにさせられたのだろう……。

 別にボクがおっぱい好きだから、というわけではないような気がする。

 そもそもそれだけならば、撥ね退けることができるはずだ。

 そこで一つ懐かしい記憶が蘇る。

 これって、麻友の「魅了」と一緒だ————。

 そう。以前、麻友はボクから精気を吸い取るときに、子どものころで何も分かっていなかったので、「魅了」の技をかけて吸い出していたらしい。

 まあ、子どものころから仕方ないのかもしれないけれど、性の知識のないボクが寝ている間の無防備な状態で「魅了」とか本当に勘弁してほしい。


「あら? 気づきました?」


 ボクが立ち上がると、彼女はすぅっと音も立てずに腰を真っ直ぐにする。

 が、ブラジャーがないそのおっぱいがたゆんっ! とエロナース服をさらにエロっぽく揺らす。

 あ。勃った。もうひとつのボクが勃った……。

 ボクは誤魔化すように、左手をポケットに入れて、目立たないようにする。


「それにしても伺っていた通り、と~っても匂いますね」

「え? なんか臭いですか?」

「いいえ! 臭いなんてとんでもありません! もっと良い香りです。濃厚でそれでいて淫靡な香り……。私が先ほどまで掛けようとしていた『魅了』を上回って、子宮を激しく疼かせる……。いいえ! 子宮どころか、卵巣すら刺激してくるこの匂い……」


 あー。しまった。

 そういえば、ボクってエッチな気持ちになっちゃったりすると、フェロモンのようなものが出るんだっけ……。

 迂闊だった。

 いや、でも、あんなエッチなおっぱいを布越しで見せつけられたら、誰だってこうなるよ!

 おっぱい好きに悪い人はいないんだぞ!

 おっぱいは地球を救う! て、何考えてるんだよ! ボクは……。


「今、勃起されてますね?」

「………………」

「じゅるり………。いいお顔です。今日の担当が私で良かったです。まさか、3日間目覚められなかった優一様が目覚めたあとすぐの一番搾りが飲めるなんて……」

「ちょ、ちょっと待って!?」

「どうされたのです?」

「の、飲むって!?」

「決まってるじゃないですか……。精液ですよ♡」

「いや、『精液ですよ♡』じゃないんですよ! 上司に怒られますよ!?」

「あー、女王ですか? まあ、サンプルをちょちょいと取れば問題ないですよ」


 あー。この人、目がマジなんだよな……。飢えた淫夢魔ってこんななんだよね……。

 何度か麻友で見たことあるけれど、あれを見せつけられたら、本来萎えてしまうであろう我が息子が、淫夢魔特有の技で萎えなかったんだよなぁ……。

 ああ、怖い。

 それを裏付けるかのように、彼女がボクを押し倒して、迫ってきているにもかかわらず勃ったままなんですけど!?

 ふわりと甘い淫らな世界に誘うような香水が鼻孔を刺激すると同時に脳内を刺激される。

 さらに追い打ちをかけるようにナアムはボクの方に突き出した胸のボタンをはずす。

 同時にぷるるんっ! とスライムのようなおっぱいがボクの方に飛び出してきた。

 だ、だから、ブラジャーを何で付けてくれないの~~~~~~~~~っ!?

 ああ、落ち着けよ、もう一人のボク……!

 す、吸われちゃうよぉぉぉぉぉぉっ!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る