第141話 嗚呼、恐ろしきヤンデレ様。

 エロナースは飛び出されたおっぱいをボクの胸元に押し付けるようにしてくる。

 ふにゅん♡

 んぉおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?!?!?

 ピンク色の突起物は固さを増し、ボクのものと擦れあい、背筋が快感でゾクゾクと震えあがる。

 こ、これはさすがにやばいよ!?

 このままされ続けたら、間違いなく果ててしまう。


「……んふあぁぁ……」


 思わずボクは声を漏らしてしまう。

 すると、ナアムは少し頬を朱に染めつつ、ニヤニヤとボクの顔を覗き込む。


「やっぱり気持ちいいんだぁ?」

「…………そ、そんなことない!」

「あ、そう。じゃあ、体に訊いてみるね。ふぅ♡」


 耳元に息を吹きかけられ、さらにゾクゾクと電気のようなものが体の中を走り抜ける。

 ちょっと待って!? 本気でこれはやばい……。

 エッチとかそういうレベルじゃない。本能が呼び出されちゃっているんだ……。

 男が喜ぶことをすべてされてしまっているんだ……。

 で、でも、何か忘れてる…………。

 ボクはナアムによって魅了された脳内を何とか正常な意識に戻そうと必死に足掻く。


「あー、無理だよ? そんなに頑張っても、もう性欲だけしか考えられなくなるから。これまでのエッチなことのなんかすべて忘れちゃうんだからね」

「……こ、これまでの……?」

「あはっ☆ 何も気にしなくていいの。ほら、君の大好きなおっぱいがここにあるよ~♡」


 そういうと、彼女がボクに対してマウントポジションを取り、ボクの方へ少しばかり倒れこむ。

 魔乳は重力に導かれ、彼女が体を揺り動かすと同時に振り子運動のように左右に揺れ始める。


「……あ……ああ……」

「そろそろ素直になっちゃいなさいよ。お姉さんがいっぱい搾り取ってあげるからさ♡」


 振り子運動はいつの間にか、ボクの脳をさらに性欲に堕とし込もうしてきた。

 下半身はもうパンパンになっており、間違いなく吸い出される……。


「ほらっ! あの女よりも気持ちいいことさせてあげるから~♡」


 あの女—————?

 あの女……………。

 性欲に支配されて、意識が飛びそうになった時、ブツンと回路が切れたような感覚がボクを襲い、目の前が真っ暗な闇に覆われる。

 ………………………………。

 ………………………。

 …………。

 怖い……。何だろう。ここは…………?

 ボクは光も何も届かないその世界に落とされたそうな感覚に襲われ、恐怖を覚える。

 と、同時に意識の中で感覚がないにも関わらず冷たさを感じる。

 す、すごく冷たい……。

 すると、目の前にすっと青白い光が灯る。

 冷たさの原因だろうか。

 その光は少しずつ形作られていき、自分の記憶の中にある知っている姿になる。

 黒髪の清楚可憐な美少女——————。

 その美少女が振り返る。

 ボクはこの美少女を知っている。

 意識の奥底に封印されかけていた記憶が蘇ってくる。

 そうだ。彼女は——————————。


「何よ。あの女は? そんなにおっぱいがいいの?」

「え………?」

「私の方が感度がいいのに?」

「う…………」

「私の中が最高だったんでしょ?」

「…………は…い……」

「そんな女に屈するなんて、分かってるんでしょうね? 優くん?」


 徐々に近づいてくる美少女の瞳にはすでにハイライトは失われ、明らかなヤンデレモードに入っていることはすぐさま気づく。

 そして、その恐怖のあまり、自分がいったい何をしでかそうとしていたのかを気づかされる。

 何より、その美少女……、いや、今は鬼のような恐怖を与えてくる女の子は、千尋さんであることが閉ざされかけていた記憶から蘇ってくる。


「優くんは誰にも奪わせないんだから……。奪おうとするなら、これ、握りつぶしちゃうね」

「んひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?!?!?」


 ボクは本気で涙を流しながら、泣き叫ぶ。

 と、同時に暗闇からボクは解放された。


「な、何!? 何なのよ!?」

「…………………はぁはぁはぁ……」


 ボクは大きく深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。

 と、同時に我が息子が健在であることを体の感覚を通じて、感じ取る。


「急に大きな声を出して、泣き叫ぶから、気が狂ったのかと思ったわ……」


 まあ、ある意味、あの恐怖には気が狂いそうでした。

 そう。一番怒らせたら行けない人が自分の帰りを待ってくれているのではないか。

 自分が攫われたことに心配してくれているのではないか……。

 ボクにとってかけがえのない彼女じゃないか……。


「さあ、さっそく搾り取ってあげ…………」


 ナアムは勢いよくボクの股間に手をやるが、空を切ってしまい、目を点にしている。

 彼女は恐る恐る振り返ると、ボクの股間に反り立っていたものが、ピクリとも反応していない状態となっていた。

 そ、そりゃそうだ。

 千尋さんの恐怖を思い出してしまったのである。

 あれ以上怖いものはない。そして、ボクは何より、彼女のことが好きなのだから、他の女に堕ちている場合なんかじゃない。


「な、何でだよ!? さっきまで魅了もかかっていたし、ここだってバッキバキだったじゃないか!? こ、これならどうだ!」


 そう言って、ナアムは魔乳をボクの顔に押し付ける。

 ボクは敢えて目を閉じる。

 本来目を閉じると、その他の感覚器官が敏感になってしまい、むしろ感じてしまいがちになる。

 しかし、ボクの瞼の裏には、アノ千尋さんが睨みつけている姿が見える。

 あうぅ…………。怖い…………。

 それを思い出すたびに大人しくなってしまう。

 怖さのあまり、震えががってしまい、おっ勃ててる場合ではなくなってしまう。

 ボクは彼女を押しのける。

 ショックのあまり、ナアムは尻もちをつき、そのまま落ち込んでしまっている。

 相当の自信があったのだろう。

 そりゃまあ、淫夢魔なんだし……。ボクくらいなら簡単に堕とせるという変な自信もあったのだろう。


「ボクには守りたい子がいるからね」


 そう言うと、ボクは彼女に先ほどまで使っていた一枚布の掛布団を彼女にふわりと掛ける。

 ボクはそのあと、ドアから出て、ロックを掛けた。

 ナアムには悪いが、ボクにとって、ひとつでも障壁を減らしたうえで、ここから逃げ出さなければならない。

 ボクは右も左も分からない地下通路を走り始めた。

 早く千尋さんのもとへ戻るために—————。

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