第139話 過激派から穏健派への誘惑

 婚約発表なんて困るに決まってる!

 すでに私にとってはお父様も認めてくれている優一さんという婚約者(と私は思っている)がいるのだ!

 ここでわざわざ他の婚約者を立てられるなんて話はまっぴら御免なのだ!


「君は穏健派の代表格のような存在なんだよ? そんな存在が我ら過激派側に付いたとなれば、世論はどう動くだろうな……」

「そりゃ、まあ、私からしてみたらよくはない方向に進むわね」

「だろう? だから————」


 一馬は私の腕をつかむと、そのままベッドに放り込む。

 そして、そのまま私に馬乗りになる。


「その可愛いお嬢様のお顔が屈服して、絶望に染まる様子を見たいんだよね」

「それも黒幕の指示?」

「いいや、これは俺の趣味☆」

「うあ。悪趣味極まりないわね」

「そんなに褒めないでくれ」

「あんた、分かっていってるの?」


 私は一馬を睨みつける。

 が、一馬はどこ吹く風のように、ニヤニヤと表情を崩さない。


「ちょっと乱暴なことはしたくなかったんだけど、えらくお転婆なようだから、少しオイタしてやるよ」

「へぇ~。何をされるのかしら?」

「今、お前の腕を術式で拘束した。あ、ちなみに足もな」

「やだっ! 変態さんだったの? SMが趣味とか?」

「うるせぇ! まったく、余裕ぶりやがって……。こちとら、何も準備をせずに来たと思っているのか?」

「ふんっ! 部屋を見る限り、何もないじゃない!」

「いや、普通にラブホだから、テレビつけたらAVくらい流れるぞ」

「————————っ!?!?!?」

「どうして、そこで顔を赤くするんだよ……」

「だ、だって、高校生が見るものじゃないし!」

「いや、すでに千尋は高校生何周……めぎょ!?」


 拘束されていても、足は上下できる。そのまま一馬の股間をクリーンヒットしたわけだ。

 あー、女の子にそういうことは指摘しちゃダメなんだぞ!

 いつだって乙女心はセブンティーンなのだ。


「お前らがいつもあの人間としていることを俺が知らないとでも思ってるのか!?」

「うわ!? 覗き!? マジで信じられないんだけど……」

「違~~~~~~~~う!!! 妹から色々と聞いてるんだよ!」

「麻友め……。今度会ったら絞めてやるんだから……」

「あれだけ激しいセックスしておいて、今さら高校生ぶるのはどうかと思うぞ?」

「まあ、あれは愛の表れってやつよ」

「それにしてはド淫乱過ぎないか?」

「……………………見たの?」


 私は顔を真っ赤にしつつも問いただす。

 一馬は一瞬呼吸を置いて、視線を宙に泳いだ後、無言でコクリと頷かれる。

 うあ…………………………………………………。

 ………………………………………。

 …………………………。

 ………………。

 物凄く気まずい。

 手を拘束されていなければ、即行、顔を覆いたいところだ。

 ああ、恥ずかしい!


「その……妹から見せてもらった………」

「あんのクソボケぇ~~~~~~~~~~~~!」


 恥ずかしさのあまり涙が溢れだしちまったよ……。

 ちょっと本当にアイツとの付き合いを考えた方がいいかもしれない。

 いや、何ならば、今が一番人生の中で恥ずかしい瞬間なのではないだろうか……。

 即座にお呼び出しツールを使って、ここでタコ殴りしてやりたいほどに……。

 てか、これじゃあ、一馬からしてみれば、私って最初から痴女認定されているようなもんじゃないの!?

 正直言って、私は自分自身で、少しはエッチが好きなんだっていう自覚はある。でも、他人にそこまで言われるほどではないわ!


「あなたが見たのは、本当の私じゃないわ」

「あー、もっと淫れる、と」

「おい! 本当に何だと思ってるのよ!?」

「性欲魔女……あ、吸血鬼か」


 いやいや、本当にこいつ、私もことをバカにしてるんだわ。

 さすがに何だか許せなくなってきたんだけど……。


「おっと。冷静さを失わない方がいいよ? 魔力が漏れ出している。無駄遣いはよろしくないんじゃないかな? 彼氏のためにも……」

「そうよ! 優くんは!? 優くんは無事なんでしょうね?」

「無事? まあ、ある意味は無事かな?」

「そ、それはどういうことよ?」

「生きてるってこと」

「それでは安心できないわ! だって、死にかけのような奴隷的な扱いを受けていても、生きているって言いきれるもの」

「あ! 本当だね?」

「白々しい……」

「あはは……。まあ、安心してよ。彼は大事な存在だから、殺したりしないよ」

「それ、信じていいの?」

「うーん。むしろ、他の女の子たちにセックスしまくってるんじゃないかな?」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?!?」


 ど、どういうことなの!? それって!?

 優一さんが種馬サラブレッド状態ですって!?


「一体、何をしようとしているの?」

「そこまで話し切りはないよ。すべては淫夢魔女王が考えられていることだからね」


 一馬は頭を左右に振ると、分からないね、と一言ため息交じりに言う。

 一気に優一さんが生きているっていう発言の信ぴょう性がガタ落ちになってしまっているじゃないか!


「優くんに何をしでかすか分からないけれど、優くんが堕ちることないわ!」

「ほう……。凄い自信だね」

「だって、私のことだけを愛してくれるって言ってくれたもの」

「ふーん。でも、麻友にも精気吸収させてあげたり、彼の妹とも週1でシてるよね?」

「あれは契約だから仕方ないの」

「すごいね……。このご時世にめかけを手にしてハーレム生活とか……」

「優くんはそれでも私との将来を考えてくれているの!」

「はいはい。おめでたいことです……。でも、彼を襲撃しているのは淫夢魔女王の配下だってことを忘れないでね」

「ま、まさか……」

「そう。淫夢魔嬢王の3人だからね」

「さ……3人も!?」

「ああ、舌技や指技も凄いし、本番に至っては挿入と同時に果てるそうだぜ」


 いや、こいつ、経験あるのかしら……?

 まあ、伝聞っぽいから聞いた話なんだろうけれど……。


「優くんは屈しないわよ!」

「そうかねぇ……。お前とのエッチに飽き始めてたら分からないぞ?」

「はぁ!? あ、飽きてなんかないわよ!」


 本っ当に腹立たしいやつである。

 優一さんが私との情事に飽き始めている?

 いつも私を抱いてくれるときは、いつも私が壊れそうになるくらい激しく求めてくれる……。

 そう。やり終えた後も私が痙攣して、何もできなくなるくらい……。

 ………………………。

 ………………。

 ………。

 ん?

 私、彼に何かしてあげてる?

 求めてくれるから、そのまま受け入れてるけれど、私から何かしてあげたことってない……。

 むしろ、麻友のほうが舌技が凄いし、美優ちゃんに至っては暴力的なおっぱい+ローションという反則的な技がある。

 わ、私は————————?

 な、何もしてあげれてないかも!?

 私って優一さんに気持ちよく、攻めてるだけかも……。


「おい? 顔色が悪いぞ? お前、本当に何もしてあげられてないとか?」

「そ、そんなことないわ! きっと、優くんは屈しないわよ! 私が助けに行くまで」

「まあ、そういうならいいけどな……。きっとイキ果てた彼氏とのご対面となるだろうからな……。もちろん————」


 すっとその瞬間にその場の空気が変わるのを感じる。

 刹那。

 一馬が繰り出した手刀が眼前に迫ってきていた!

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