第135話 彼女はさらに狙われる。
月曜日————。
生徒の多くにとって、苦痛の一週間が始まる初日でもあるこの日。
私にとっては、そんな数多くの生徒を上回るほどの苦痛を味わった。
そもそも、帰ってからもジュニアがお腹を空かせている関係で、私は母乳を与えなくてはならない。
しかし、そうなると、まとわりついたエロスライムの性的攻撃が容赦ない。
ジュニアにミルクを飲ませている間は何とか耐えたが、ジュニアが飲み終えたのを確認して、赤ちゃんにゲップさせるのを美優ちゃんにお願いすると、私は精神的に落ち着かせるのに必死になった。が、すでに魔力の籠った母乳を嗅ぎつけたエロスライムが私の性感帯を攻めてくる。
おかげで今朝は美優ちゃんの朝でイき死にかけたのである。
ああ、本当に嫌だ。
このような状況で、果たして私は3日間なんて乗り切れるのだろうか……。
「おっはよ~ん!」
「おはよー」
「うわっ!? 元気ないわね……。それが幼馴染に対する挨拶かしら」
「当たり前でしょう? そもそも優くんがいなくなって気分が塞ぎがちだというのに、今は憂鬱な修行中なんだもの……」
「あー、今朝のこれね?」
と、麻友はスマホを取り出し、一枚の写真を見せる。
そこには私が盛大にイき果てた瞬間の恥ずかしい姿が……。
「美優ちゃんね……。そんな画像、早く消しなさいよ! 健全な女子高生が写真フォルダに入れておくものじゃないわ」
「ま、確かにね……。朝、美優ちゃんから写真が送られてきたときには、さすがにビビったわ。あんたが頭おかしくなったのかと思っちゃった」
「そんなわけないでしょう? 至って脳みそは正常よ……。このエロスライムの所為で、違う意味で脳を破壊されそうだけど」
「ねえねえ……」
「何よ?」
「気持ちいいの?」
ゴキンッ!!!
周囲に鈍い音が響く。
当然、私が麻友の脳天に叩き込んだ拳骨の音だ。
「いったぁ~~~~~~~~~~い! 何すんのよ!」
「それはこっちのセリフだわ! こんな人通りの多いところで……。しかも、学校の近くで何て画像を見せつけるのよ?」
「いや、普通に千尋だけど?」
「まあ、そうだけど……。て、そうじゃなくって、問題はそこじゃなくて、内容の方よ!」
「あ、まあ、そう言われればそうか……。こんないやらしいことしてるのが、まさか学年トップテンに君臨する清楚可憐なお嬢様とは誰も思わないか……」
「私のキャラというものがあるんだから、そこはきちんと理解して欲しいんだけど……」
「まあ、それは理解してるよ? ほら、あんたのファンがたくさんいるよ?」
「ファン? ああ、ファンね……。てか、普通にクラスメイトだから気にしないで……」
麻友の視線の先には、私のクラスメイトがまるで私の護送船団方式をするために待ち伏せているかのような状況だ。
さすがにあれは朝からひいちゃうなぁ……。
「「おはようございます!」」
「おはようございます。皆さん、お早いですね」
私は挨拶をしてくれたクラスメイトにニコリと微笑み返す。
いつもは優一さんと一緒に登校しているということもあり、この子たちがこのような行動をとらないのだが、優一さんは療養中……ということにしてあり、私の横には麻友が一緒にいるだけなので、他の変な虫が付いたらまずいとでも思われているのだろうか……。
悪いが、変な虫が近寄られることはない。そもそも私は吸血鬼なのだから、並の人間であるならば、力という部分では負けることはない。たとえ、今、魔力の練度を高める修業をしているため、魔力が解放できなくとも———。
「私と教室までご一緒してくださいますか?」
私が軽く会釈をしつつ、そう彼女たちに伝えると、彼女たちは頬を朱に染めつつ、「はい! 喜んで」とどこぞの居酒屋のような返事をして一緒に歩き始めた。
「いやぁ、猫を被るのも大変だねぇ~」
麻友、聞こえてるからね!
クラスメイトに聞こえたら面倒なんだから、黙っておいて欲しいものだ。
ある意味、長い一日が終わった。
と、安心しきっていたのかもしれない。何気なく、カバンに荷物を詰め込み、急いで家へ帰らなくてはならない。
美優ちゃんからは逐一、LINEでジュニアの様子が届いているものの、さすがに粉ミルクばかりだと今度は私の母乳で胸が張ってしまう。
革のバッグを肩に掛けて、教室を出ようとする。
と、そこには見慣れない男子たちが私の方を見ている。
残念ながら、帰宅時は護送船団をしてくれるファンの方も部活動が忙しいので、ここにはいない。
「何かご用でしょうか?」
私は至って冷静に話しかけると、男子生徒は無表情のまま私の方に近づいてくる。
うう。何だか気持ち悪い……。
「あなたに告白したいという方がいらっしゃいまして」
「あら? そうなんですか?」
「ええ、そのための手紙をお渡しに来たのです」
そういうと、男子生徒は私に封筒に入った手紙を手渡す。
「3日後の夕方にお待ちしております」
「…………………」
そう言うと、男子生徒たちは回れ右をして、ぞろぞろと廊下を歩きながら去っていった。
残されたのは放課後の雑踏の中、手紙を持つ私とノイズだけだった。
本当に普通に恋の告白?
それにしても嫌な予感しかしない。
「千尋!」
むにゅんっ♡
「ふにゃあっ!?」
突如、後ろから気配もなく近づいて、無意味に胸を揉む女……。
そんなの一人しかいない。
男女関係なく年中発情系女子の麻友だ。
「ま、麻友っ! こんなところでじゃれ合わないで!」
「じゃれ合う? 違うよ! あたしは千尋のお胸を揉みたかったのだよ……。癒しのために……」
「私は全然癒されないんだけど?」
「あれ? そう?」
「それに周囲の男子たちが私たちのことを変な視線で見てくるからやめて」
「あ~、まあ、確かに周囲の男らの性欲が解放されてるね~。さすが清楚可憐の千尋さんだねぇ~」
「絶対にバカにしてるでしょ? 今日の晩御飯抜きで良い?」
「えっ!? それだけは止めて! 千尋の食事美味しくて家で作りたくなくなっちゃうんだよねぇ……」
「どうだか……。あんたも料理お上手じゃない? 一流シェフ並みに」
「ま~ねぇ~! てか、さっきのアレ、何だったの?」
「うーん。わかんない。何だか、3日後に告白したい人がいるんだって」
「え? 今すぐじゃなくて、3日後なの?」
「うん。それとこんな封筒まで貰ったの」
「普通に怪しくない?」
「まあ、普通に考えても怪しいわよね……」
まずはこの手紙を読んでみるしかないようだ。
相手がいったい誰なのか、全く分からないのだから……。
まあ、これまでもこういう告白は幾度と受けてきたが、ただ、優一さんと付き合い始めてからは何となくそういうものが減っていたような気がした。
それが突然の告白予告……。
何もないわけがない。
「まあ、まずは帰宅する? 今日、あたし、部活ないんだよね~」
「それは嬉しそうですね。まあ、帰ってからどういう人なのか、確認してみましょうか」
「うん! そうする~」
麻友は軽~く返事しながら、私と一緒に昇降口の方まで歩いて行った。
きっと私の護衛のために来てくれたのだろう。
でも、それを正直に言わないのが、麻友らしさと言えばそうなのかもしれないけれど。
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