第104話 メロンなのか、マシュマロなのか。どっちでもヤバイ。

「次はウォータースライダーに行くよ!」


 麻友ははにかんだ笑顔でボクらに言ってくる。

 斎藤財閥が所有するこのプールではウォータースライダーが人気だ。

 2人乗りと4人乗りがある。が、やはりリア充が多いことから、2人乗りの方が人気が高い。


「麻友さん! どっちに乗るんですか?」

「美優ちゃん! いい質問です!」

「あんた、また何か企んでるでしょ……」


 何かを察する千尋さん。ボクも千尋さんの意見に一票入れるよ。

 こういうときの麻友は必ず何かを企んでいるんだよね。


「もちろん、ここはじゃんけんで決めましょ!」


 階段を上りつつ、麻友はボクたちに提案する。

 千尋さんは「えっ……」と一瞬言葉を失いかける。

 こんなに肌の触れ合うイベントなのだから、もちろん、ボクと一緒に乗りたいというのが本音なのだろう。


「麻友ちゃん、あたしはそれでもいいよ」


 美優は平等ということもあって、それでいいという。


「じゃあ、じゃんけんに勝った子が優一と一緒に乗れるってことで良い?」

「よ、良くないです!」


 そこで待ったをかけたのが、千尋さんだった。

 どうやら、他の女の子とボクが乗ることを大層、嫌なご様子だ。

 まあ、ボクも乗るならば、千尋さんとがいい。


「千尋? これは勝負の世界なのよ。それに敢えて、美優ちゃんにも平等に対戦できるじゃんけんにした意味も考えてよね」

「うう………。な、ならば仕方ないわね」


 と、千尋さんは紫色の炎を灯らせる。

 凄い気迫なんだけど……!?

 と、ボクが思った瞬間に麻友が千尋さんの脳天にチョップをぶち込んだ。


「いったぁ~~~~い! 何すんのよ! 麻友!」

「あんたねぇ……。ナニ一人だけズルしようとしてるのよ?」

「ズ、ズル? ナンノコト?」


 どうして、片言な喋り方になるんだ?

 ボクや美優には何がズルなのか分からない。


「この子、今、自分の魔力で瞳を魔眼に変えようとしていたのよ? そうすることで超高速なものもすべてスローモーションのように見えるの。これを使えれば、じゃんけんは絶対に勝てるわ」

「うわ………」

「千尋お姉さま、それはあんまりですね……」


 ボクと美優の呆れた表情を見て、彼女は泣きそうになる。

 いや、さすがにそこで泣かれてもボクにはどうしようもない。

 そもそもズルはダメでしょ……。


「はい。千尋はズルをしたので、不戦敗ってことでいい? 優一?」

「うーん。さすがにズルはよくないよね……」

「あ、あうぅ……。優くん……」

「ごめんね」


 ガックリと項垂れてしまう千尋さん。

 ここは千尋さんには悪いけれど、さすがに擁護のしようがない。


「じゃあ、気を取り直して、いくよ! 美優ちゃん!」

「はぁ~~~~~い!」

「「じゃんけん、ポン!!」」


 麻友はグー、美優はパーを出している。

 その場でもう一人の少女が項垂れた。

 麻友、相当本気で狙ってたんだな………。


「やったねぇ~。あたしの勝ちぃ!!」

「いい勝負だったわ……」

「いや、あんたいつもじゃんけん負けてるじゃない……」

「そ、それは言わないで……。てか、ズルした人に慰められても嬉しくないわ」

「何よ? 私だって、結構落ち込んでるんだからね」

「まあ、いいじゃない。兄妹きょうだいなんだから、過ちは起こらないでしょ?」

「いや、あの凶器がついている限り、きっと何か問題が起こると私は思うわ……」

「ま、まあ、あれは母性本能がくすぐられちゃうかもね……?」

「あと、性欲だってね……」


 その二人の視線が美優のお胸にガッツリと注がれていることはボクでも分かった……。

 いや、これ、普通にボクが試されているだけじゃないのか!?

 ボクは一人で恐れおののいた。

 そのうち、順番が回ってきて————。


「じゃあ、お兄ちゃん! 行くよ!」

「お、おう!」


 さすがに男性スタッフも、これが妹!? という表情で美優の方に視線を向けてしまう。

 まあ、かなりエロいスタイルの妹でごめんなさい。

 ちなみに後ろから、ボクの精神をゴリゴリと削るような視線を向けている女子も可愛いのでそちらも見てあげてください。

 まあ、たぶん、スタッフさんには興味を向けないと思いますけど……。


「あたしが後ろで、お兄ちゃんが前に座ってね!」

「えっ!? でも、それだと……」

「いいの、いいの!」


 そう言われて、そのまま流されるように寝そべる。

 もちろん、妹の胸の下にボクの顔が来る。

 ぬぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉおぉぉっっ!?!?!?

 ま、待ってくれ!

 目の前で見たけど、これは理性に対する暴力ではないか!?

 大きなメロンが二つ、ボクに迫りくるようにぶら下がってる!

 こ、これは男たちが視線を向けるわけだ!

 少し動くたびにたゆん、ぷるるん! と跳ね踊るそれは、ボクの魔人としての力を解放してしまいそうになる……。

 が、何か冷たいものを感じて、その勢いを増そうとしていた下半身は静けさを取り戻す。

 うーん。後ろでお待ちのが嫉妬で魔力が駄々洩れなんだけど!?


「ゆ、優くん………」


 恨めしそうな声がボソボソと漏らしているのは、彼女の千尋さんだよね。

 その横では、麻友がなだめているが、心中穏やかではないようだ。

 いや、その精力旺盛な若者であれば、ボクのような状況に陥れば、間違いなく冷静さを失いかけるに決まっている!


「では、いってらっしゃ~い!」


 ついにボクらを乗せた浮き輪はスライダーに流される。

 勢いがさすがに普通とは違う。て、ここ、小学生不可ってことはそこそこ危険なのでは!?

 気づいた時には遅い。

 ボクらを乗せた浮き輪は右に左に揺り動かされる。

 もちろん、ボクだって気が気じゃない。

 目の前の……メロンが弾んでるぅ—————っ!!!

 ボクの下半身はもう穏やかにいてられない。

 さらに「きゃっ!」と美優が叫ぶと同時に、ボクにしっかりと抱き着いたのである。

 お、おいっ!?!?!?

 それが何を意味しているのか、分かってるのか—————っ!?

 ふやふわのマシュマロのようなメロンがボクの顔を包んでるんだけど~~~~~~っ!?!?!?

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