第158話 バレンタインデー狂騒曲(2)
学校に着いて、自席に座ると近くにいた反田ゆきさんと山根あきさんが話しかけてくる。
この二人は私が入試した当初から仲良くしてくれている親友だ。
「おはよう! 千尋!」
「おはよう、反田さん」
「あれ? 今日、何だか千尋の顔が赤いけど、大丈夫?」
「え!? 山根さん……私の顔、そんなに赤いですか?」
「まあ、赤いっていうか、ほんのりピンク色っぽい感じってところかな」
マズイ! 絶対に朝に優一さんのペロペロでイカされすぎて、顔の紅潮が落ち着いてないんだわ……。
本当に麻友ったら……。
「外が寒かったですからね……。きっと教室と外との寒暖の差の影響だと思います。全然風邪のような症状はありませんから」
「そうなんだ! でも、2月に入ってさらに寒くなったよねぇ……」
反田さんがそう言うと、山根さんが「そうそう!」と相槌を打っている。
どうやら怪しまれていないことが確認できて、私としてはホッと一安心する。
それにしても、二人は朝から元気だなぁ……。
「それにしても、お二人とも朝から元気いっぱいですね」
「え? うん! まあね!」
「ゆきから元気をなくしたら何もなくなっちゃうよね!」
「えっ!? 何それ! ちょっとひどくない?」
本当に元気な二人だなぁ……。
いつも元気を分けてもらっちゃっているような気にすらなってしまう。
「まあ、それは冗談でさ。実は私たち、朝から朝練があったからね」
「朝練ですか?」
「そう! ウチの学校は女子バスケも結構強くてね。朝練も結構ガッツリとあったりするんだよね」
「それでお二人ともすでに活力が漲られているんですね」
「あ、千尋ちゃん、上手く言ってくれるじゃない! あきなんか、バカの一つ覚えみたいに、元気、元気と何度も言ってくるんだもん。やっぱりここの出来が違うねぇ~」
「いや、それは私だって思ってるって、千尋と比較されるのはちょっとマジで勘弁」
「あはは……そんなことないですよ。私はお二人に質問をしてもらえるから、それを教えることで復習もできていますから」
「おおーっ。何だか、一石二鳥だね」
「ええ、本当にそう思いますよ」
「じゃあ、今度の3学期末もお手伝い宜しくねぇ……」
「ええ、構いませんよ」
私が愛想よく二人に返事をすると、反田さんが、
「じゃあ、早速今日から……と言いたいところなんだけど……」
「あら? 今日は部活がないんですか?」
「うん、そうなんだ。でもね、ちょっと買い物に行きたくってさ~」
「そうなんですかぁ……」
「何だか、ゆきはさ、バレンタインデーにチョコをあげたいんだって!」
ドクンッ!
あれ? どうしたんだろう……。胸の鼓動が————。
「そ、そうなんですか? どなたか好きな方がいらっしゃるんですか?」
「うん! そうらしいよ」
山根さんは面白がるように私に話してくる。
女の子はこういう恋バナは本当に喜んで飛びついてくる。
「ま、まあ、バスケ部の子なんだけどね」
ホッ………。
て、どうして私は今、安心したんだろう……。
やっぱり、朝の麻友の余計な言葉が心のどこかに不安感を持ってしまっているようだ。
「じゃあ、そのためにチョコレートを?」
「まあ、私、あんまり手作りは苦手だから、失敗のないように買いに行きたいかなぁって」
「なるほど。じゃあ、今日は放課後に?」
「そう! 買いに行こうと思ってね」
「山根さんも?」
「うん! 私も手ごろなのを何個か買っておこうかと思ってね」
「手ごろなもの?」
「あー、まあ所謂義理チョコってやつよ。あからさまな義理チョコって分かるような『ブラックライダー』だと可哀想だから、安めだけれど、一応、バレンタイン用を、と思ってね」
「義理チョコっていうのもあるんですね……」
「あれ? もしかして、千尋さん、今までバレンタインデーにチョコを上げたことないとか?」
「はい……。お恥ずかしながら、今までそういうイベントに参加したことがありませんでして……」
「別に恥ずかしがることじゃないって! ところで、千尋ちゃんは誰かにあげるの?」
反田さんの一言が一瞬で教室の空気を変えた。
それまでは朝の朝礼前の賑やかな雑踏と化していた教室が急に静まり返る。
「わ、私はまだ迷っていまして………」
うん! これって無難な回答じゃない?
その義理とかいうお情け的なチョコを上げる行為か、本命のように恋に堕とす専用のようなものか、どちらのことを言っているのか分かりにくいはず!
が、周囲……特にクラスメイトの男子はそうとらえてはくれなかったみたいだ。
「おい、聞いたか?」
「ああ、聞いたぜ!」
「錦田さん、バレンタインデーにチョコを渡したい奴がいるみたいだな!」
「誰だよ! そんな幸運も持ち主は!」
「そういえば、最近、錦田さんと佐竹が一緒にいるところ見たぞ」
「いや、だけど、あの佐竹だぞ?」
いや、幸運って何?
それに優一さんのことをバカにしないで欲しいんだけれど……。
優一さんはあなたとは何もかも出来が違うんだから!
「それにしても千尋も大変よねぇ……。ちょっとバレンタインデーの話になっただけで、クラスの男子がこんなに浮き足立っちゃうんだから」
「あはは……。やっぱり貰うと嬉しいものなんでしょうね」
「そりゃ、意中の女の子から貰ったら嬉しいと思うよねぇ」
「あ、あの……反田さん、山根さん」
「ん? どうしたの?」
「買うかどうかは分からないのですが、私もご一緒させてもらってもいいですか?」
「いいよ!」
「お姉さんたちがしっかりと教えてあげよう!」
まずはバレンタインデーではどういったチョコが好まれるかとか全然分からなかったので、ぜひとも「常識」を教わりたい、その一心で私は二人にお願いしたのだった。
が、どうやら周囲では変な憶測(まあ、優一さんにあげるので、あながち噂からは間違いではないのですが……)が広まっているようなので、私の行動も気を付けないといけないですね。
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