第88話 甘い話のあとの衝撃的な少女の登場。
ボクらが洋菓子屋さんに着き、レシートを店内スタッフに見せると、突如、ボクらは席に促された。
はて? 確か、洋菓子を受け取りに来ただけではないのか?
それに確かに今思うと、洋菓子を取りに行って、妹の美優を迎えに行くといっても、まだかなり時間があるといえばあるではないか……。
果たして、母さんは何を企んでいるんだろうか。
ボクの不審がる気持ちをよそに、目の前にはログハウス調の店内とショーケースに並ぶ色とりどりのケーキに目を輝かせる千尋さんがいた。
何だか、これはこれで可愛い。
「ねえねえ、優くん。すっごく可愛いケーキがたくさん並んでるね!」
「本当だ。ボクにはあまりよく分からないけれど、どれも美味しそうに見えるなぁ」
「本当だよね。でも、どのケーキを千鶴さんは予約したんだろうねぇ」
「河崎様がご予約された商品は、ここには並んでおりませんよ」
店内スタッフがボクたちの話の間に割り入るように話しかけてくる。
ここにはない————?
限定商品ってこと?
「あの、それはどういうことでしょうか?」
「それはこちらからはお伝え出来ませんねぇ」
「サプライズ的な何かですか?」
「それにもお答えできません」
「ふーん、そうなんだぁ……。まあ、この中からはないってことなんだね」
「まあ、そういうことになります。そこで河崎様には、お席で少しばかりのお時間を演出させていただければ、と奥様から依頼いただいております」
「「—————え?」」
ボクと千尋さんは二人そろって目を点にする。
どういう風の吹き回しだろう。母さんがボクと彼女のために一席用意したってこと?
「河崎様からは本日、お二人にアフタヌーンティーセットを準備するよう承っております」
「へ、へぇ……。そんなの聞いてなかったよ」
「サプライズがお好きですからね」
この店内スタッフさんは母さんとそこそこ長い付き合いなのだろうか。知った風に返事をされる。
「優くん! お母様には感謝してもしきれないわ! 私、このお店、本当に行きたかったの!」
「え? そうだったの?」
「うん! 実家に帰るってことになった時に、新幹線の中でもこのお店のこと見てたんだよね。アフタヌーンティーセットってイギリス王室のような貴族令嬢のお茶会で出てくるようなケーキとか洋菓子が出てくるだけじゃないのよ! 実は、あのショーケースのケーキも食べられるんだもの! しかも、どれも1つずつはOK!」
なんだそりゃ。お店赤字にならないのかな……。
「でも、ちょっと問題があったのよね」
全部食べられないとかそういう話なんだろうか……。
ボクはそこまで大食いだったのかな……と口が裂けても言ってはいけないセリフが喉元まで出かかる。
「このセット、お得意様にしか提供してないのよ!」
「そっち!?」
「え? 何だと思ってたの? だって、このケーキセット、お店のケーキが一種類ずつ食べれるし、ティーセットの洋菓子も食べれる。それで2,000円なのよ! お得だわ!」
「そ、そうなんだ……」
確かに、先ほどのショーケースの商品を見ていると、どれもケーキは400円から600円くらいしていた。
ボクは一人暮らしでケーキなんて食べることがなかったし、見かけるケーキと言えば、スーパーやコンビニで売られているパンメーカーが作っているものくらいだ。だから、せいぜい200円~300円くらいなものだと思っていたので、衝撃だった。
とはいえ、このケーキをどのくらい食べれるというのだろうか。
まさか、全部食べないよね?
そんな心配をよそに、スタッフさんがクッキーやらミニケーキなどが並べられたセットを持ってきてくれる。
そして、程よく茶葉をジャンピングさせた紅茶がカップにそそがれる。
その赤茶色は何ともエレガントな色合いに見えたし、何といっても香りが普段飲んでいるそれとは大きく異なった。
「うーん。いい香りですね」
「はい。本日は、奥様から大英帝国御用達の茶葉でおもてなしをするように申し受けております」
「ええっ!? じゃあ、これ、エリザベス女王も口にされていたってこと?」
「はい。左様でございます」
「す、すごいものを取り扱っているお店なんですね」
「はい。テレビで先日も報道されたのですが、格式を下げるつもりはありませんので、お店で騒ぐようなレベルのお客様は、ご退出いただく旨、放送でも流していただきました」
「いやぁ、それは凄い……。それでも、ここまで盛況なんですね」
「ありがとうございます。あら? お連れの方がいらっしゃいませんね」
「あ、もしかすると………」
ボクは嫌な予感がして、ケーキの並ぶショーケースの方に視線をやると、ちゃんとそこには千尋さんがいたのであった。
甘いものに目がないってのも可愛いポイントなのかな?
その後、彼女は本当にショーケースの商品とティーセットのクッキーなどを堪能した。
一体、この華奢な体のどこにそれが入る場所があるのだろうか、と不安になるくらいに。
彼女も満足したタイミングで、ちょうど迎えに行く時間に近づいていることに気が付いた。
スタッフさんから母さんが頼んでおいたという商品(夏ということもあって、がっちりと発泡スチロールのボックスに入れられてある)を受け取り、ボクらは足早に妹・美優の通う学校に向かった。
このお店からそれほど遠くないところだった。
陽光が厳しいので、千尋さんには学校前の街路樹の木陰で待ってもらうことにする。
ボクが校門前で待っていると、
「ねえねえ、あの人誰~?」
「誰かの彼氏かな~?」
「え? てことは待ってるってこと? やっさしぃ~」
と、自身にとってはこれまで受けたことのないような言葉を受けて、少しダメージを受ける。
そんな中、ひと際賑やかな女の子の集団がやってくる。
ボクはそっと振り返ると、その女の子集団のひとりの少女と目線が合う。
と、同時に美少女は駆け寄ってきて、ボクの腕を抱きしめる。
「み、美優!?」
ボクは驚き、素っ頓狂な声を上げるしかできなかった。
てか、胸! 胸で挟んでる!?
少し見ない間に豊満なお胸に育った妹がボクの腕をおっぱいで挟んでくる。
なんでシチュエーションなんだ!?
「ねえ、その人誰~?」
黒髪の女の子がハンカチで汗を拭いながら、妹に問う。
妹は、振り向きざまに、
「あたしの彼氏だよ!」
と、最高に可愛い笑顔で言いのけたのであった。
て、ちょっと待て————————っ!?!?!?
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