3.幼馴染属性だからと言って、少女は手を抜かない!

第57話 朝のルーティンと少女からの誘い

 夏休みが始まり、一週間が経過した。

 私と優一さんは、夏休みに入ってすぐに夏休みの課題を終わらせ、初のデート……旅行に行くことになりました。

 そもそも、これをお膳立てしてくれたのは、麻友だというのはわかっていたのですが、彼女も私と優一さんの仲が発展しないのを見て、モヤモヤしてくれていたのでしょう。

 まあ、実のところ、私自身もモヤモヤしてましたから、正直申し上げて、麻友、グッジョブ! って褒めてあげたいところだったりします。

 今回の旅行で、私と優一さんは、めでたく結ばれたわけですから………。

 て、今思い出しても、あの夜のことを思い出すと……脳内麻薬でも注入されたかのように下半身がキュンキュンしちゃいそうです。

 まあ、そんなわけで(略しすぎ)、めでたく優一さんは私の眷属となったので、これにてめでたしめでたしというわけなのです。

 ティロリン♪

 私のスマートフォンが鳴動する。

 手に取ってみてみると、どうやら相手は麻友からだった。

 うーん。あんまり読みたくない気分なんだけど……。

 私は優一さんと私の朝ご飯の「彼氏をダメにするふわとろオムレツ」を作りながら、うーんと悩む。

 とはいえ、まあ、麻友には旅行の件のこともあるので、ここは見ておいてやるべきか、と判断してタップする。


『この間の旅行はどうだったの? 色々とお膳立てしてあげた私としては興味津々なんだけどなぁ~』


 やはり、これですか……。

 どうやら、どこまで仲が発展したのか気になっているご様子ですね。

 とはいえ、ここでサクッと「眷属になった」と報告してもあまり実感がわかないので、やはり直接、優一さんは私のものになった、と言っておかなくてはならない。

 まあ、だからと言って、彼女が引き下がるとは思えないのだけれど、さすがにここは言っておきたいわけよ!

 正妻としては——————!

 これは、絶対に負けられない女の戦い!

 けれども、彼女とはすでに平和条約を交わしていて、週に一度、必ず精飲をしてもいいと認めてあげている。

 これはさすがに彼女の生きていくすべを失わせちゃうことは可哀想なので、旧知の間柄である私としては、許してあげたいところなのだ。

 それに、彼女の方が先に吸ってたわけだし……。


「ま、仕方ないっか……」


 私はそう呟くと、手際よく左手でフライパンを振って、オムレツの形を整えつつ、右手で返信を打ち込む。


『いいわよ。ちゃんと話をしてあげる。ちなみに今日なんてどう?』


 女の子の行動は急なのだ。

 もしかしたら、家のことで忙しいかもしれないけれど、そこは気にしないのが私のスタイル。

 まあ、クラスメイトとはそんなことはないけれど、旧知の麻友とはこのくらいの行動力で何ら問題ないのだ。

 送信後、すぐに既読が付き、麻友から返信が来る。


『じゃあ、今日10時に、駅前のスタバで』


 スタバ……最近流行りのカフェスタンドのような店だ。店内は少ない席数ではあるものの、座り心地の良いソファがあって、長居したくなる。

 確か、夏限定の桃のフラペチーノがあったなぁ……。気になっていたし、ちょうどいいか。


『OK』


 と、スタンプで返信を済ませる。

 ちょうど、「彼氏をダメにするふわとろオムレツ」が完成したのだ。

 オムレツとカリッと焼いた食パン(もちろん、斜めにカットしたオシャレな感じ)、そこにキャベツとコーンのシーザーサラダを盛り付けてある。

 朝はあまり重たくない食事を提供するようにいつも心がけている。

 ダイニングテーブルに配膳し、ちょうどタイミングよく、ドリップコーヒーが落ち切った音がなる。いつもありがたいよ! シロカ!

 安物のコーヒー豆だけれど、美味しくコーヒーを飲めるのは、やはりミル付きのドリップマシンがあるからこそだ。

 これは私が同棲してから持ち込んだものだ。

 どうやら優一さんが朝からインスタントではあったものの、コーヒーを飲んでいることから、私がお母様に頼んで、購入してきたものだ。

 デロンギ製も捨てがたかったが、そこまで業務用チックなものは不要だろうということと、ダイニングテーブルにあっても、内装の雰囲気が損なわれないシロカに軍配が上がったわけだ。

 私は配膳を終えると、ササッと鏡で身だしなみを整えて、優一さんと私の愛の巣である寝室をそっと覗く。

 太陽光が漏れ入るなかで優一さんの寝顔が尊すぎる!

 本当に誰なんでしょう! 陰キャは彼氏にするものではない、みたいなことを言ったのは……。

 私にとっては、変な虫がついていなかったのが本当に嬉しい限りです。

 あ、まあ、毎週命をつなげるために、知っている虫がついていましたけど……。

 私はそっと優一さんの耳元まで近づく。


「優一さん、朝ごはんができましたよ」

「んん~……」


 優一さんは寝返りを打つ。

 昨日も夜遅くまで、本を読んでいたので、眠たいのでしょう。

 まあ、そのあとで、愛し合ってもらえたので、それも含めて疲労がたまっていたのかもしれませんが……。

 私はお目覚めのキスをしようと、そっと彼の唇に顔を近づける。

 ガバッ!!!


「ふえぇっ!?」


 近づいた瞬間に布団から、腕が飛び出してきて、私は捕まってしまう。


「ちょ、ちょっと!? 優一さん!?」

「たまにはボクが君に対して、キスをしてあげてもいいかなって」

「な、なんですか!? それは……。起きているならば、声をかけた時に起きてくださいよ」

「何だか、勿体なく感じちゃって……ね?」


 ね? じゃあ、ありません!

 本当にびっくりしちゃったんですから……。


「朝ごはん出来ましたよ。今日は『彼氏をダメにするふわとろオムレツ』です」

「いつも凄いネーミングセンスの料理を持ってくるね」

「まあ、お料理サイトで私がフォローしている人のネーミングセンスが凄いんです」

「なるほど……。まあ、千尋さんの食事は本当に美味しいからね」

「あら。それは嬉しいですね。ちなみに麻友の料理と比べると、どうです?」

「ええっ!? 麻友も料理はかなり上手いだろ……?」


 そう。本当にあのガサツな麻友のどこにそのような繊細さがあるのか、と疑いたくなるが、実は麻友は料理がかなり上手い。私はそれを知っていたからこそ、優一さんを自分のものにする前に、死ぬほど努力して……ウチで雇われていた料理長に弟子入りまでして、料理を学んだのである。

 それだけのことをやっても、引き分けだなんて……。彼女の料理に関する感性だけは本当に持たざる者としては羨ましい限りである。


「でも、今日の朝ご飯もかなりいいと思いますよ!」


 私はそういうと、彼の唇に軽くキスをして、そのまま優一さんをベッドから連れ出した。

 冷めないうちに愛を感じてほしいのだから!

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