第80話 少女と少年は誰もが認めるバカップル。

 あの後、私は浴室の脱衣所で優一さん(ケダモノVer.)に抵抗することもなく、屈服させられた。

 今日が本当に危険日でなかったことを感謝するしかない。

 間違いなくあれは……いや、思い出すのは敢えて止めよう。

 それよりも、今はこの状況下を何とかすべきということよね……。

 私の目の前には、きちんとシャワーを浴び、服を着替えなおした麻友とお母様・千代が正座している。

 私は腕を組み、彼女たちに睨みを利かせている。


「で、何か言いたいことは?」

「あわわわわ………」


 さっきから麻友はずっとこの状態。

 どうやら、私の優一さんとしたということに対する申し訳なさと、どうやら相当プレイが激しかったらしく、少し目覚めてしまった動揺……といったところだろうか。まあ、どちらにしても、トラウマとなっていたエッチなことをさらっとやってしまったことに対してのショックはあるようだ。


「うーん。そうねぇ……」

「お母様、何かある?」

「若いっていいわね」

「はぁ?」

「いやぁ、だってあんな素晴らしい彼氏をよく見つけてこれたなぁって」

「まあ、私も優くんは偶然出会えたから、本当に運が良かったとしか……」

「そう……。で、お願いがあるんだけど———」

「いやよ」

「ええっ!? いきなり、どうしてそんなに食い気味で……」

「どうせ、優くんを私に寄こせとか、貸し出せとかいうんでしょう? 絶対に嫌よ。そんなの認めるわけないじゃない」

「あらそう……」


 どうやらお母様は私の言った通りのことを考えていたようで、残念そうな表情をする。

 が、すぐさま、吹っ切れたような表情をして、


「ま、いいわ。徐々に彼を私に引き込めばいいんだから」

「いや、諦めなさいよ! どうして人の彼氏を奪おうとするわけよ」

「その方が燃え上がるでしょ?」

「あんたがね……! 私にとっては、怒りのボルテージが大炎上しそうなんだけど!?」

「まあ、そんな怒らなくても……」

「て、怒らせてるのは、あんたの方でしょうが!」

「うふふ。千尋にもそんな子ができて、お母さん嬉しかったわよ」


 あー、絶対にこの人反省してないわ。

 これは明らかに隙あらば、優一さんの貞操を奪いに来るわ……。

 私の魔力で結界でも張っておこうかしら……。

 て、そんなところに結界を張るなんて聞いたことないけどね……。


「あー、頭がガンガンしますね……」

「あ、優くん! もう、大丈夫なの?」

「え? あ、ちぃちゃん……。すごく記憶が朧気なんだよね……。ボク、きっと何かまたやっちゃったよね……?」

「え? まあ………」


 優一さんが申し訳なさそうに頭を掻いている。私は視線を麻友に移す。

 麻友は顔を真っ赤にして、優一さんとは視線が合わせられないでいる。

 それに対して、優一さんは何かを察したようで。


「も、もしかして————」

「あ、あのぉっ!」


 麻友ちゃん、声が上ずっているわよ!?

 緊張しすぎなの!?


「あ、あたしの……しょ、処女を……奪ってくれてありがとうございます!」


 予想通りだったのだろうけれど、整理できていないのか、目が点になる優一さん。


「ま、麻友……ごめんよ……。謝るのはこっちだよ……」

「あ、いえ! あたしは大丈夫だよ!」

「そんなことないよ……。麻友が大人の階段を上るのに、本当にボクでよかったの?」


 悪気がないんだろうけれど、優一さんは麻友への距離感がおかしい。

 まあ、所謂、幼馴染的距離感の発動だ。


「はわわわわわ………!?」


 麻友も麻友だ……。瞳がハートになっているって。

 近づかれるだけでメス堕ちとか……。あんた、淫夢魔だろ!? 逆に堕とす側でしょうが!


「あ、あの……あたしは、優一が良かったんだよ……」

「え……?」

「あたしも優一のことがす、好きだったんだもの」

「うえぇぇぇぇぇぇぇっ!?!?!?」


 優一さんはこの日一番の大きな声を出して驚いた。

 あー、やっぱりあの距離感であっても気づいていなかったのは、幼馴染属性という関係があったからに他ならない。


「だ、だから、これからもよろしくね!」

「だれが、よろしくね! だ。急にメスにならないでよね……。優くんは私の彼氏なんだから」

「あぁ、そうだよねぇ……。でも、ホラ! 契約は生きてるんでしょ?」

「そ、そりゃまあ……」

「じゃあ、その日はねっとりと楽しんでもいいんだよね?」

「いや、トラウマはどこにいったのよ……」

「そんな過去のものはもう捨ててきちゃったよ!」


 いやまあ、本当に処女もサクッと薬の力で捨てちゃったんだけどね、あんたは……。

 と、私は思ったけれど、敢えてツッコミを入れなかった。

 いや、入れることができなかったのだ……。余計な人が絡んできたから————。


「え!? 何よ? その契約っていうのは……」


 お母様だ。

 どうしてそんなにガッツクのか……。

 それにしても……と私は優一さんの方を見ると、優一さんはお母様に対して、視線を合わせれず、頬を赤らめている。

 え、マジで? 人妻が好きなの!?

 いやいやいや……。もうすぐ目の前の超絶美少女の私があなたの妻になれるのよ!?

 まあ、あと数年後の話だけれど……。


「別にお母様には関係ないわよ。麻友と私との間で結んでいる保護協定のようなものだから」

「あら、つれないわねぇ……」

「仕方ないでしょ? お母様は協定を反故して、関係なく手を出しそうだもの」

「ちょっと? お母さんをハイエナか何かと勘違いしてない?」

「お母様はハイエナよりも恐ろしい淫夢魔よ……」

「ううっ。否定はできないけれど、彼の味が本当によかったのよ……」

「これだから、お母様には絶対に、優くんと会わせたくなかったのよ」

「まあ! ひどいわ! そもそもこうなったのは、あなたも関係あるのよ?」

「はぁ? 私が? どこにそんなフラグが立っていたのかしら……?」


 私がフラグを立てた? 勘弁してほしい。

 私がそんな間抜けなことをするわけがない!


「だって、あなた、優一くんと同じ学校には入れたころから、LINEで優一くんのことばかり報告してきたじゃない?」

「なっ…………………それは……」


 ちょ、ちょっと待って!? まさか、お母様は—————。


「それに優一くんの寝顔にキスしている写真とか送られてきたら、こちらもあなたが選んだ男の子に会いたくなってしまっても当然じゃない?」

「うわぁ……。フラグを立てた気ないとか、自信満々に言っといて、リア充ぶりをLINEで報告とか、やばいよ、千尋……」

「こ、これは違うのよ!?」


 ああ、優一くんがこっちに真顔で見てくる。

 もしかして、この女、やばいとか言い出すんじゃないでしょうか……。

 私もさすがに心が折れちゃうんだけど……。


「それにほら! ちゃんと証拠もあるわよ!」


 と言ってお母様はスマホを取り出して、その写真を見せつけてくる。

 ああ……それはダメだよぉぉぉぉぉぉぉ………。

 あうっ!? 優一さんがさらにこちらを見てくる。


「あ、あのね……優くん…………」

「ちぃちゃん! こんなにボクのことを思ってくれていたんだね! ボクのこと、ここまで好きでいてくれるなんて嬉しい!」


 え? あれ? あれあれあれあれ?

 私の心配を他所に優一さんは、私の手を握りしめて、目を輝かせている。


「ボクはちぃちゃんの彼になれて、本当によかった!」

「ええっ!? ちょ、ちょっと!? ゆ、優くん!?」


 私は彼の腕の中にいつの間にか納まり、そして、そのまま彼に唇を塞がれる。

 さっきの野獣のようなキスではなく、余すことなく私を愛しているという返事のような甘いキス。

 ああ、やっぱり私、彼を本気で好きで好きでたまらないんだわ!


「千代さん……。ダメですよ……。こいつら、バカップルなんですから……」

「まさか、目の前でこんな激しい愛を証明を見せつけてくれるなんて……。やるわね、千尋ちゃん!」

「いや、何を興奮してるんですか……。それにしても、本当、千尋って———」

「チョロイわね………」


 もう、好き勝手言ってくれちゃって! でも、彼のことが好きなのは間違いないんだもの!

 これは間違いない。

 でも、幸せのおすそ分け程度なら、麻友にもあってもいいかな……。

 あ、だけど、私の最後の目標に向けて、彼と一緒に成し遂げたい……。

 え? 目標? それはまたの機会に言うとするわ。


「もう……優くん! 激しいよぉ。あっ♡ だ、ダメ! そこは敏感だから、吸っちゃだめぇぇぇぇっ♡」

「「寝室でやってくれぇ~~~~~~~~~~~~っ!!!」」


 我慢できなかった麻友とお母様は、私たちに対して、怒りの籠った抗議の声を上げるのだった。

 だって、彼のことが好きなんだもん!

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