4.盗人猫はツンデレとヤンデレを足して2で割った感じ。

第81話 可愛い彼女からの突如の提案。

 ちゅんちゅんちゅん——————。

 窓から朝の陽光が差し込み、ボクの顔に照らされたことで、目を覚ました。


「眩しい……」


 手の甲で陽光を遮るようにしつつ、ふと目に飛び込んできたのは、優しく寝息を立てる彼女の顔だった。

 そう。彼女は学年一の清楚可憐な美少女である錦田千尋さん。

 ボクが受験の日に彼女を貧血で倒れたところを解放したことから知り合い、学校でもお互い学級委員として、一緒になることが多かった。

 そんな彼女がボクのことを好きで、告白されるなんて驚きが隠せなかった。

 それ以上に、彼女とボクは今、同棲している。

 付き合っていることは、少しずつ学校でもバレつつあるみたいだけど、同棲していることは正直言うとバレてはいない。

 というか、この歳で同棲をしているなんてことが学校にバレたら退学ものだ。

 そんな美少女がボクの目の前で静かな寝息を立てている。

 同棲し始めてから、ずっと一緒に寝ることは、彼女との約束事になっていて、夜は一緒にベッドインして、お互いがキスをしてから寝る。

 お互いが最高に幸せの気分を共有している。


「……ふふっ……。可愛いな……」

「ありがとう」

「ええっ!?」


 ボクの一言と同時に、彼女はうっすらと瞳を開く。


「もう、本当に……。優くんはそうやって、私に対して、恥ずかしげもなく、そういうことを言えちゃうんだから!」

「あう……」

「でも、それが嬉しいんだけどね……」


 そういうと、彼女はふっと微笑み、はにかんで見せた。

 陽光に照らされて、彼女の肌は、光り輝く上品な白い絹のようだった。


「将来の旦那様。おはようのキッスはないの?」


 意地悪く彼女は自身の人差し指で唇をチョンチョンッと、指さす。

 全く、意地悪だな……。


「い、いや……何だか、恥ずかしくて……」

「夜はあんなにケダモノになれちゃうのに?」

「やっぱり朝だしね……」

「うふふ。何だか初心だね?」

「そ、そうかな……」

「うん。立派なもので私たち吸血鬼やどこぞの淫夢魔をヒィヒィと泣かせたとは思えないほどに……」

「そ、それは言うなよぉ! それを言うなら、ちぃちゃんだって————んぐっ!?」


 千尋さんがいきなり、ボクの口を手で押さえつける。

 ボクはムグムグと抵抗するが、彼女は目の前で顔を赤く染めつつ、


「よ、余計なことは言わないで……。あれは、の私なんだから……」


 夜の私って————。

 何だか、聞きようによっては、凄く卑猥な感じがするんだけど……。


「とにかく、そろそろ起きましょうか……」


 彼女はムクッと布団から起き上がる。

 クローゼットから服装を見繕うと、


「優くん、あっちを向いているか、お部屋から出ていくかどちらかにしてくれないかしら?」

「あ、そうだよね! き、着替えるんだものね」

「まあ、そういうこと……」


 と、少し恥ずかしそうに返事する彼女。

 夜はお楽しみでしたね、なんて言われそうなボクら二人だけど、着替えるときはお互いの視界に入らないようにしている。

 これはやはり、ボクと同じで普段は恥ずかしいのだ。

 ボクは寝返りを打って、視界に入らないようにする。


「絶対に見ちゃダメよ」

「念を押すね」

「ま、まあ、着替えはちょっと恥ずかしいからね」


 夜はあんなに激しくても、朝とかの着替えは違うんだなぁ……。

 あ、ちなみに同じことはお風呂の時もそうだ。

 シュルシュル………と衣擦れの音が聞こえてくる。


「……………………」

「ダメよ」

「ん? どうしたの?」

「そうやって自然を装って振り返るのもダメよ。いいって言うまでは、こっち見ちゃダメ」

「……………………」

「優くんって思っていた以上にエッチよね。特に私の裸に対する興味関心が半端ない」

「あはは……。まあ、彼女だし……」

「いや、彼女って言ったって、あんなに四六時中、彼女のことを見つめている男なんてそう見たことないよ?」

「ええっ!? 普通に見るでしょ」

「うわっ!? だから、こっち見るなって……」

「ああっ! ごめんなさい……」

「全く……油断も隙もないんだから……」


 彼女はぷりぷりと怒りながら、着替え終わる。

 ようやく、許可が下りて、振り返ると、そこにはシンプルな紺色のカットソーにライトブラウンのラップスカートを着た千尋さんが立っていた。


「優くんはどうも、心が読みやすいわね」

「え? そう?」

「うん。特にエッチなことに関しては敏感に読み取れるかも……」

「何だかひどい……」

「だって、さっきも彼女さんの着替えを見てみたいって思いが、脳から漏れ出てるの」

「も、漏れ出て………」


 そんないい方されたのは初めてだ。

 とはいえ、世の中の男の子なんて、女の子の裸に興味を持つ年齢じゃないか!?

 かの有名な22世紀からやってきた青いロボットの登場する話でも、主人公がエッチと言われているじゃないか。


「じゃあ、優くんも着替えて来てね」

「あ、うん」


 ボクは少しだけしょんぼりとしつつ、返事をした。




 ボクが自室を出ると、すでに食卓にはトーストの良い香りがする。

 そして、彼女はキッチンではベーコンエッグを作ってくれているようだ。香ばしく焼かれたベーコンの香りが鼻孔をくすぐり、空腹をより伝えてくる。

 ボクはコーヒーメーカーに豆をセットして、ドリップを開始する。


「あ、ありがとう。だんだん、分かってきてくれてるじゃない?」

「まあ、これも慣れてきているってことなのかな……」

「そうね。いい傾向だわ。ちゃんと夫婦生活してるって感じだもの」

「ふ、夫婦!?」

「そこを強調しちゃう? ま、いいわ。ホラ、ちょうどベーコンエッグもできたから、朝食にしましょう」


 彼女と同棲し始めてから、ボクの生活のリズムの中で大きく変わったこと……、それは朝食を欠かさずとることになったことだ。

 彼女から、「朝食は一日のエネルギーの源なのよ?」と注意されてから、毎日作ってくれるようになった。

 そして、二人で朝ご飯を必ず食べることがルール化された。


「それにしても、優くんもきちんと朝ご飯を食べるようになってきてから、顔色や肌艶が良くなってきているわね」

「そ、そう?」

「うん。あれだけ週に何回か搾り取っても、この肌艶はなかなかのものだよ」

「……あははは……」


 できれば、その搾取がなければ、ボクの体調はもっといいのかもしれない。


「あ、もしも、吸われなかったらもっといいのかも? なんて思ったでしょ?」

「ううっ!? ど、どうして………?」

「優くんはそもそも吸われないと、体の機能が維持できないようになるから、実は今が最高にバランスのいい状態なのよ?」

「へ? どういうこと?」

「優くんの濃厚な血液や精液は生み出され続けるってこと。だから、消費しないと、体調のバランスが崩れるんですよ」

「へぇ……。そんな不安定な状態だったんだ」

「まあ、それを今まで麻友が飲んでくれていたので、問題なかっただけですよ」

「なるほどね……」


 て、まあ食事中なんだけど、さらっとこんな話をしてしまえるのは、何だか凄いよね……。

 サクサクのトーストを彼女は上品に食べていく。

 そして、はたと手を休め、


「そういえば、今日から8月なんですね」

「あ、確かにそうですね」

「夏休みの最初があまりにも濃厚すぎて、もうかなり経っているような気持ちになりますよねぇ……」


 そういえば、前半で何か色々と大きなイベントが立て続けにあり、すでにボクとしては消化不良気味になっている。


「そこでですね……。一つ提案があるんです!」

「うん? どうかしたの?」

「優くんのご実家に行きませんか?」

「ふぇえっ!?」


 ボクは思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

 彼女の提案に、ボクは正直なところ乗り気ではなかったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る