第113話 嵐は再びやってくる。
12月31日——————。
テレビでは、有名な歌手が歌合戦を繰り広げたり、年越しの瞬間まで「お笑い」を放送しているテレビ局もある。
他にも、Youtubeでは、YoutuberやVtuberが年越しまでトークを繰り広げている……そんなものまであるようだ。
人々が思い思いの番組に耳を傾けたり、おせちの準備をしたりと忙しい年の瀬の大晦日。
妹の美優が特別推薦という思いもしない入試で合格をもぎとってから、すでに4か月が経とうとしていた。
ボクはあの日、妹から唇を奪われ、それに満足そうな妹と憤怒収まらぬ彼女の板挟みを味わった。
形式的な仲直りを済ませたものの、千尋さんは妹のことを「泥棒猫」とずっと切り捨てている。
一応、ボクの妹なんだけど……ね。
とはいえ、妹の美優も卒業までは今通っている中学校に行かなくては出席日数の関係もあり、夏休みの間、ボクの家に滞在したのちに、実家に戻ることになった。
妹がいると何だか麻友とは違った元気なオーラを拡散しているようで、常に家に温かみを提供してくれていたように思える。
とはいえ、彼女の千尋さんにとっては気が気ではない状態だったようだ。
そりゃ、妹がボクのことを「好き」で、キスまでしてしまえるような子なんだから……。
それに、妹は「上の口の初めて奪われちゃった」と言っていたのを、千尋さんは聞き逃さなかった。
きっとそのうち、「下」も奪ってもらおうとしてくるはず。
なんとも物騒な話だが、ボクはそんなのは冗談だと思っていたのだが、千尋さんはこれ以上、ライバルを増やすのはまっぴらごめんといった感じで、ずっと睨みを利かせているようだ。
それと夏休みをずっと二人きりで居られると思っていた打算が崩れたショックだったのだろうか。美優が帰った日の夜の千尋さんは、妖艶だった。
いや、もう……どうとか説明できないくらいエッチでした。
本人のプライバシーのこともあるので、これ以上はさすがに言えないのだけれど、夏休みの最後の思い出としては、お互いが忘れられない夜になったことだけは伝えておきたい。
まあ、ボクもそうだけど、彼女も翌日は恥ずかしすぎて、視線を合わせられないなんて言う状態に陥ってしまったのだから……。
そんな彼女は今、ボクの横で
冬休みの膨大な量の課題とレポートを終えて。
年越しの瞬間は一緒に迎えたいという彼女のいたっての願いから、今日は早めを入り終え、湯冷めしないように暖かな格好をして、その瞬間を待つためにテレビを見ていたところだった。
彼女との暮らしはかなり慣れてきて、今ではボクも一緒に料理を作りつつ、何だかボクら二人がキッチンに立つと新婚夫婦のような感じでそこだけはいつも慣れずにいる。
ボクの肩を借りて寝息を立てる彼女は、幸せな微笑みを浮かべて眠っている。
黒く艶のあるロングヘアーに白い絹のような肌。すっとした目元に少し長めのまつ毛が彼女をさらに美人に見せてくれる。
彼女の心地よさそうな寝息が、聞こえてくる。
湯冷めをしないようにボクは用意してあった大型のブランケットを一緒にまとう。
「やっぱり可愛いな……」
思わずボクは言葉を漏らしてしまう。
すると彼女の眉がピクリと動き、その目がゆっくりと開く。
「……もう、そんなに見ないでよ……」
彼女は少しプゥッと膨れて、言ってくる。
「大丈夫だよ。別に涎が垂れていたわけじゃないんだから」
「そういう問題じゃないわよ……。寝顔、見てたんでしょ?」
「そりゃ、そこに眠る可愛い彼女がいるんだから、見ちゃうでしょ」
「あー、もうズルい! 恥ずかしい! エッチ!」
「えーっ。それはさすがにないよ……。寝ちゃったのはちぃちゃんなんだから……」
彼女はボクを冗談でポクポクと殴り掛かる。
恥ずかしさからか、顔が真っ赤になっている。
「優くんはズルい。私の寝顔を見てただけじゃなくて、寝起きの彼女に理解を上回る破壊力のある言葉を言っちゃうんだから……」
「それも理不尽だよ……。可愛い彼女を可愛いって言ってどうしてダメなの……?」
「も、もう! だから、そういうのだってば! まだ、寝起きで頭が回っていないんだから、そういう照れる言葉をバンバン言っちゃダメ!」
そういうと、自分の顔を隠したいのか、ボクの方に倒れこみ、お腹のあたりに顔を隠す。
彼女が動くとふわりと優しい甘い香りがしてくる。
ボディソープやリンスの香りだ————。
どうして男ってのは、こういう女の子の香りにドキドキしてしまうのだろうか。
「あれぇ~、優くん。何だか匂いが濃くなってきましたねぇ~」
あ、しまった。
千尋さんのいい匂いと同時に抱き着かれて、ふわふわもこもこの服の下にあるものの感触が伝わってきて、少し興奮してしまっているらしい。
「どうしようかなぁ……。新年迎えてからの吸血と今年内最後の吸血とどっちがいいかなぁ……」
「どっちでも吸うわけなんだ……」
「だって……優くんのこと好きなんだもん♡」
う、上目づかいで頬を朱に染めながら、その言葉を言うの止めてくれない!?
絶対にどんな男でも堕ちるよ!?
「うーん。我慢できないよぉ~♡」
彼女は吸血モードに入り、とろりと蕩けた瞳でそういうと、ボクの抱きしめて、首筋に照準を合わせる。
どうやら年内最後の吸血にするようにしたみたいだ。
「いただきま——————」
ピンポーン!
彼女がボクの首筋に牙を立てようとした瞬間、ドアチャイムが鳴る。
「大晦日のこんな時間に誰だろう」
ボクはそっと立ち上がって、玄関の方に向かう。
宅配業者? 何か頼んだっけな……。
麻友は、今年は実家の両親と財界人を集めての年越しのパーティーがあるとかで、こっちへは来ないと言っていたはず……。大変だなぁ……。財閥令嬢も……。
ボクは玄関を解錠してドアを開ける。
「いやぁ~、年越しまでに間に合った~~~~~~~!」
その元気な声は聞き覚えのあるものだった。
と、同時にボクの後方からは、「げっ!」とあからさまに不満の声が聞こえてくる。
がっつりとダウンのコートを着て、夕方過ぎから降り出した雪がコートにちらほらと見える。
「お、お前……どうして?」
「あれ~? つれないなぁ~。実の妹がここにいたら何か問題かな?」
そう。目の前にいるのは、ボクの妹の美優だった。
別に妹がいておかしいとは思わない。
だが、母さんからも妹が来るなんて連絡は受けてない。
「出席日数が十分に満たされたので、あとは卒業式だけ参加してくれたらいいって、校長から言われちゃったのさ!」
「いやいや、だからって……」
「と、いうことでこちらでの生活に慣れるようにするために、これからもよろしくね! お兄ちゃん!」
「ど、泥棒猫が優くんを再び奪いに来た~~~~~~~っ!」
「ち、千尋お姉さま!? 泥棒猫って失礼です! 良きライバルってことで!」
「優くんを射止めたのは私なの! 今さら奪いに来ないで!」
「まあ、別に減るもんじゃないんだし……」
「美優ちゃんがキスすると減っちゃうのよ!」
「あー、まあ、それはお互いさまってことで……」
「そんなぁ………」
千尋さんは項垂れつつ、ソファに崩れ落ちた。
折角、年内最後の吸血もお預けとなった彼女は、ムラムラが収まらない様子だし……。ああ、これ、ボクが大変な状態になるやつだ……。
ボクの心配などつゆも知らない美優は、
「じゃあ、お兄ちゃん! これからもよろしくね!」
美優はそういうとボクの頬に軽くキスをして、それを見てしまった千尋さんはさらにストレスをためていったのであった。
もちろん、新年あけて早々のベッドでは、結界で閉じ込められてイケないことを散々やられちゃいました。
萎れたボクと肌が艶々になった美少女が同じ布団で寝ているという搾取する側と搾取される側がはっきりと分かるような姿であったことが、すべてを物語っていたのである。
ああ、千尋さんを怒らせると本当に怖いよ……。身が持たないよ……(リアルで)。
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