第132話 私がやるべきこと……。
ドバンッ!!!
私はドアを力任せに開け放つ!
「お父様!」
「ち、千尋ちゃん!?」
私はヅカヅカと驚きふためく、お父様のもとへと突き進む。
ここはお父様が棲んでいる私の実家。
そこそこ大き目な一軒家(庭+カーポート2台分付き)にお父様は棲んでいるのである。
「ち、千尋ちゃん!? ど、どうしたのさ!」
「ちょっとお母様に御用があるので参りました」
「そ、その前に家にはカギがかかってたでしょ!? インターホンを鳴らしてくれれば開けたのに……。どうやって入ってきたの?」
「カギがかかっていたので、少しばかり力を込めてドアノブを回したら、開きました」
私は表情を変えずにニコリと微笑んで答える。
お父様はそのドアの現状を確認して、
「千尋ちゃん……。ドアノブを力任せに破壊するのはやめなさい……。案外修理代って高くつくものなんだから……」
「ちょっと時間がないもので」
「いやいや、さすがにそれはないでしょ……」
お父様はやれやれと首を横に振ると、床に落ちかけのドアノブを手に取り、何か呪詛のようなものを唱える。
すると、青白い光とともに、ドアノブが壊れる前の状況に戻される。
「お父様……修理代、かかってませんよね?」
「こうでも言わないと、千尋ちゃん、また壊すでしょ?」
「こんな清楚可憐な美少女をゴリラ扱いしないでください」
「別にそこまで言ってないよ。まあ、今のドアの破壊の仕方は、力こそすべてな脳筋ゴリラにしか見えなかったけど……って、痛い! 痛いから!」
私は指先から伸ばしたピンク色のしなやかな魔力で紡いだ紐でお父様をはたく。
いや、私にSMなど目覚めはしないので安心して欲しい。
どちらかというと優一さんに…………、じゃなくて—————!
「で、お母様はどちらに?」
「うーん……実は千代さんは今、ここにいないんだよねぇ……」
「やっぱり………」
「ん? やっぱりって何か知ってるの?」
「優くんがお母様に攫われたの……」
「攫われた!? どうして……?」
「それが知りたかったからここに来たのよ……。まだ話し合いの余地があるのならばと思ってね……」
「そうなのぉ……」
お父様は頬に右手を添えつつ、少しばかり考え込む表情をする。
いやぁ……それにしてもいつにも増して、お姉感が出てるな……。
「最近、お母様の様子がおかしかったなんてことないの?」
「うーん。まあ、兆候はあったかも……」
「兆候? どんな?」
「まあまあ、そうがっつかないで……。コーヒーを入れるから、少し落ち着きなさい」
「ミルクと砂糖ありでお願いね」
普段、家では優一さんの前ということもあって、ブラックを飲んでるけれど、ここでは少し甘えたいって気持ちもあるから、普段通り、ミルクと砂糖入りでお願いする。
お父様は笑顔で、「いいよ」と言って、キッチンの方へ向かっていく。
ダイニングテーブルにマグカップが差し出され、一口すする。
うん。甘くて美味しい。
「それで……兆候ってどういう状況だったの?」
「えっと、まず、その前に千代さんが吸血鬼と淫夢魔のハーフだってことは知ってるわよね?」
「ええ。もちろん、知ってるわ」
そのおかげで、私も優一さんのフェロモンを嗅いでしまうと、子宮がキュンキュンと疼いちゃうんだから……。
あれは間違いなく、お母様の淫夢魔の血の影響だと私は考えている。
ええ、決して、私はど淫乱であるという意見は、真っ向から否定させていただきたい。
「お母さんの血は特殊だから、周期的に淫夢魔の性質がどうしても表立って出てきてしまうのよね」
「いや、普通にそれって危ないでしょ?」
「そりゃ危ないわよ!」
「で、どうして、お父様がそれを抑え込まないの?」
「千尋ちゃん、お父さんに死ねと言いたいの?」
「いや、ちょっと言ってる意味が分からないんだけれど……」
「千代さんが淫夢魔の性質が出てきたら、収まるまで男性の精気を吸い続けちゃうんだから……」
「ええっ!?」
いや、普通にそれ危なくない!?
例えば、麻友が普通の淫夢魔だったとしたら、お腹いっぱいと満足さえしてしまえば、それで終了になる。
しかし、お母様は底なしになってしまう。
欲望充足—————。
まさにその言葉のとおりに奪い取れるだけ吸い取ってしまうのだ。
「それで、優くんが攫われたから、ウチに来たのね?」
「そう。でも、話を聞いて、本当にヤバイってことが分かったわ……」
「で? 対抗策は何かあるの?」
「とにかく、魔力量を増やすってことかしら……。優くんを助けるためにもそれが効率的かなって……」
「その答えはノーね」
お父様はテーブルに肘をつき、手を包み込むように握りながらそう答えた。
「で、でも、お母様が今、淫夢魔の血が暴走している状況なんでしょ?」
「そうね。それは間違いないと思うわ」
「じゃあ、それを押さえつけるだけの力が————」
「だから、そこが間違っているというの」
「ええっ?」
「千尋ちゃんは吸血鬼なんでしょ?」
「え……そうよ」
「じゃあ、吸血鬼らしく戦うべきじゃないかしら?」
「吸血鬼らしく?」
「吸血鬼っていうのは、別に力任せに戦うものではないでしょ?」
「う、うん。そうよ?」
「じゃあ、そろそろ吸血鬼として成長するのもありじゃないかしら……」
「いや、ちょっと……どういうこと?」
「まさか、千尋ちゃん、優一くんとイチャイチャしすぎて、吸血鬼であることを忘れているの?」
「いや、さすがにお父様でもふざけていたらぶっ飛ばしますよ?」
「だから、そうやって力任せではなく、内からの支配や攻撃というのが吸血鬼の本来の戦い方でしょ?」
「————魔眼のことを言ってるの?」
「ご名答」
お父様はニヤリと私に微笑みかける。
とはいえ、私は戸惑ってしまう……。
「で、でも、私は魔眼なんて使ったことないから、分からないんだけれど……」
「そりゃ、千尋ちゃんはまだ魔眼は使ったことないでしょうね……。そのレベルになっていないもの」
「やはり、まだ弱いってこと?」
「いいえ。魔力量ならば、すでに十分以上に備わっていると思うわ。問題は量ではなくて————」
「———質ってこと?」
「察しがいいわね。そもそも魔力というのは、量が多ければ、その分、攻撃などに特化した術式を組むことが可能になるわ。これがいわゆる魔法とか魔術と呼ばれるもの。でも、吸血鬼はそもそも術式の組み立てを簡素化できる能力を持ち合わせている。だから、瞬時に思い描いた魔術を繰り出すことができる。でも、それだけがすべてじゃない。魔力の質を高めれば高めるほど、今度は精度の高い、かつ魔術の攻撃力そのものを高めることができるのよ」
「てことは、魔力の質が高ければ、炎を生み出すにしても、同じ魔力量で攻撃力の高い炎を生み出せる、と?」
「そう。そこで千尋ちゃんの魔眼も一緒に起動させることで威力は2倍や3倍の比ではなくなるわね。累乗のごとくね」
「でも、それってどうやればできるようになるの?」
「焦らない、焦らない。まずは魔眼を開眼させるためにも、魔力の質を高めないとね」
「お父様!」
私はフローリングの床に正座して、額を床に付ける。
「お願いです……。私に教えてください……。優くんを、優くんを助けたいんです……」
いつの間にか、私の瞳からは涙が流れていた。
お父様はそっと私の傍に近寄り、顔をそっと上げさせて、その涙をふき取ってくれる。
「千尋ちゃんの思いはすっごく伝わったわ。いいでしょう。教えてあげる……。まあ、私も千代さんを救ってほしいという思いもあるからね」
私はこのお父様のもとで育って、本当に嬉しいと感じた。
「頑張ります。お父様……」
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