第153話 少女は押さえつけられても、自分の気持ちを表に出した。
「ねえ、もうそろそろ離れてもいいんじゃないの?」
麻友が千尋さんの脇腹を小突く。
千尋さんはというと、そんな麻友を今にも●してしまいそうな表情で睨みつけている。
「麻友ちゃん、さすがにこの二人が引き離されていたのは、心に重かったのでしょう」
「えー、でも、一度再会して、5発ヤってるよね?」
「あー、えー、まー、そうですね……」
「あたしなんか、まだ一滴たりとも飲んでないよ? そろそろ絞りたいよ~」
「麻友ちゃん、はしたないです! て、まあ、あたしもお兄ちゃんにハグしてもらえていないので、そろそろお兄ちゃんエネルギーが切れそうなんですけどね」
「ちょっと……美優ちゃん? あなたは私の眷属でしょ? 何で、優くんのエネルギーが必要になるのよ? 必要であれば、私のでもいいじゃない!」
「そんな! 千尋お姉さまと抱き合うなんて……。あたしもおっぱいに負けちゃうじゃないですか!」
「ねえ、殴っていい? 殴っていいんだよね? 今のタイミング」
「お、お姉さま!? もう、殴ってるんですけど!?」
「ちぃちゃんもそれくらいにして。妹を虐めるのは、さすがにボクとしても困るからね」
「うっ……ごめんね、優くん」
そういうと、ボクは素直に謝ってきた彼女の頭を撫でてあげる。
が、それを見ていた妹が—————、
「お兄ちゃん! 騙されちゃダメです。千尋お姉さまはあたしにちょっかいを出して、反省したタイミングで頭を撫でてほしかっただけです」
「ええっ!?」
「まあ、千尋だったらあり得るわね……。無駄に頭いいし。ここまできたら、ジーニアスじゃなくて、クレバーよね……。本当にずる賢い」
「ちょ、ちょっと!? 言いたい放題言ってくれるわね! 私はそんな優くんに甘えているように見えるのかしら?」
「「はい!」」
「——————!?」
「だって、そうじゃないですか! さっき抱きしめてもらってから、いまだに一度も恋人繋ぎの手を離していませんよね?」
「それに分かってるよの? 体温を感じるためとか言いつつ、自分だけ気持ちのいいところを優一にマーキングするように擦り付けてるでしょ?」
「ぬ、濡れ衣よ!?」
「じゃあ、これはなに?」
と、麻友は瞬間的に千尋さんの股に右手をやる。
「んふっ♡」
敏感なところを擦ったのか、ピクリと体を震わせる。
そして、手を引き出すと、指先にはねっとりと湿っていた。
「どうして、感じてんのよ?」
「あぅっ!? こ、これは………」
もはや言い逃れできないと千尋さんは悟ったらしく、
「何だか、さっき抱きしめてもらった時に優くんから受けた温もりっていうのかな……。それが今までのとは何だか違っていたの……。その気持ちがどんどん私の中に流れ込んできて、それが体いっぱいに広がっちゃうのよ……。すると、何だか欲しくなっちゃって……」
「言い方エロッ、ですわ! 千尋お姉さま!」
「そうよ。美優ちゃんがムラムラすること言っちゃダメよ! 千尋!」
「え!? 私が悪いの?」
千尋さんはボクの顔を覗き込むように尋ねてくる。
その表情はズルい!
「まあ、ボクももしかしたら、何か体質的なものが変わっちゃったのかもね」
「優一……。本当に千尋には甘いわよね……。これまであたしに優しかった優一を返して欲しいくらい……」
「だって、優くんはあたしにとっては、大事な存在だもの……」
「はいはい。分かったって……。ところで、千代さんはどうするの?」
「私がどうかしたのかしら?」
突如の声に全員が声の主の方に振り返る。
焦っていないのは、千尋さんだけだ。
「はぁ~~~い。元気にしてたかしら? 千尋ちゃん?」
お母さんと呼ぶにはあまりにも見た目からして若すぎるその女性にボクは言葉を失ってしまう。
「あれ~~~? 久々の再会だというのに、つれないわねぇ~」
「お、お母様……」
「あ~、そんな堅っ苦しいのはなしよ~。折角の再会なんだし、もっとフランクに出来ないの?」
「千代さんは、どうしてここに?」
「あれ? 麻友ちゃんじゃない! お久しぶりねぇ~」
「お久しぶりです」
やはり麻友の装いにもどこか緊張感を感じる。
「私は今、この研究所の所長みたいなものをやっているのよ~。もう、忙しいのなんのって!」
「それって、千尋お姉さまの血を研究するためですか!?」
美優は空気に気おされていたが、何とか声を張って問い質す。
千代さんは美優の方を目を細めて、見つめ、
「この子誰? 私、千尋ちゃん以外に子どもを産んだつもりないんだけど……」
「あわわわっ! ご、ごめんなさい! 私、河崎美優って言います! 千尋お姉さまの眷属です!」
「あ~、そうなんだ~。それにしても、君ぃ~」
ツカツカツカとハイヒールが音を響かせつつ、千代さんは美優に近づく。
こ、殺されるのか?
そうなる前に、ボクが飛び出さなきゃ………!
「いいおっぱいしてるわよね」
千代さんは両手で、美優のおっぱいを下から持ち上げるように鷲掴みする。
「んにゃぁあぁぁぁぁぁぁっ!?!?!?」
急におっぱいを揉まれて、発狂する妹。
そのおっぱいがいけないんだよ……。罪深きおっぱい。
「うーん。確かに千尋ちゃんの波動を感じるわね。眷属ってのは間違いなさそう。それと君!」
ボクが美優に何かあった時のために近づいていたのがいけなかった。
千代さんはボクの方に手をかざすと、ボクは目に見えない何かに拘束されたような感覚を覚え、そのまま千代さんのもとに引っ張られる。
「優くん!?」
「あらぁ? 千尋ちゃん、それはどういうこと?」
「え、あ、あの……」
「最近、話で聞いていたんだけど、物凄い精気を持っている特殊な人間を眷属にした吸血鬼がいるって……」
「あ、あの………」
「もしかして、あなたなの?」
すべてを見透かしたようなその瞳は恐怖以外の何物でもなかった。
先ほどまでのふんわりとしたつかみどころのない雰囲気ではなくなっていた。
「はい。私です。それに優くんは私の婚約者です!」
彼女は短い沈黙の後で、千代さんに対して、そう宣言したのであった。
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