第154話 お母様の企て。
私の声が部屋に響き渡る。
いや、みんな……? そんな静かに私の発言を聞いていたら、何だか恥ずかしいんだけど……?
てか、何か言ってよ……。
発言した後で、何だかこの無言の時間が私の恥ずかしさを増長しているし、同時にそれこそ認められないような空気が広がっているように感じるんだけど!?
私はそーっと麻友の方に視線を送る。
ほれ! 私を助けるための一言を言ってくれ! と。
が、麻友はというと、その視線を気づいているにもかかわらず、自分には関係のないことのごとく、視線をさらにその先の方に向ける。
いや、それってガン無視じゃない?
ちょっと、待ってよ!
そ、そう! み、美優ちゃん!?
と、今度は美優ちゃんの方に目を向ける、
が、肝心の美優ちゃんはというと、なぜか両手で顔を覆って、すすり泣いているではないか!?
な、何か悲しいことでもあったの!?
そう思ってみていると、私が見ているのに気づいた美優ちゃんは、涙をぬぐうと私に向かってサムズアップをして見せた。
いや、マジでどういうこと!?
今は一刻も早く、この空気を何とかしてほしいのだけれど……。
まさか、自分が勇気をもってした発言がこんなにも大失策の様相を呈するなんて思ってもいなかったんだけど!?
で、このいやな沈黙を打ち破ったのは一番、打ち破って欲しくない人だったわけで————。
「ほう。そうか。こいつが千尋ちゃんの婚約者なのね?」
「………そ、そうよ!」
「本当に人間でいいの?」
その視線には怒気を孕んでいた。
そりゃそうだ。私たち吸血鬼や麻友のような淫夢魔の寿命は長い。
人間を一緒に暮らそうとしても、あっという間に人間の命は尽き果ててしまう。
「構いません。私が決めたことなので……」
「そう。で、あの人は何て言ってるの?」
「え!? あ、お父様は、すでに仲良くなっていて—————」
「本当に?」
拘束されている優一さんにお母様が疑念を持った表情で問いかける。
「あ、はい……。色々とお世話になっています」
「あら、そう。で、今回は私ってことね?」
「あ、でも、今のお母様には—————」
「何か問題でも?」
黒い魔力の波のようなものが一気に私たちの方に押し寄せる。
美優ちゃんは相変わらず耐性がなくて、白目を剥いて鼻水を垂らし、口をポカーンと開けている。
麻友は小さな障壁を作って、その波動を受け流している。
「脅迫しても無駄よ! 今のお母様は純粋に私を認めてくれているお母様ではないもの!」
「あら? そう思うの?」
「ええ、そう思います! だって、今のお母様はいつものお母様じゃないです!」
「…………………」
急に眼光が鋭くなるお母様。
私はその眼光に負けないように睨みつける。
「お母さんをそんな目でにらみつけるなんて、千尋ちゃんへの教育は甘かったのかしら……」
「憑りつかれたお母様に言われたくないです」
「そんなこと言っていいのかしら? この子がどうなるか分からないわよ?」
「ちょ、ちょっと!? 優くんを殺そうというのですか!?」
「殺す? そうねぇ……。それもいいんだけれどぉ~。あなたが見つけた精気の持ち主を味見してみたいと思わない?」
あ、そういえば、今のお母様は淫夢魔なんだった。
ということは、吸血ではなく……「搾精」!?
「お、お母様!? な、なんてことを企てているんです!? 娘の彼氏を—————」
「そうよ! 今流行りのNTRよ! 目の前で淫夢魔としてのテクニックを見せつければ、あなたにとっても大ダメージでしょ?」
「ま、まあ…………」
いや、確かに優一さんをNTRれるなんてことがあれば、私の心としては大ショックだと思う。
しかも、淫夢魔としての能力で、堕ちた優一さんが自ら望んでエッチをし始めた時には私は熱にうなされてしまうかもしれない。
それよりも、だ。
お母様が優一さんを襲っているとか、そもそもそれを大公開させる!?
人妻と言ってもいいレベルのお母様と優一さんの情事を生々しく見せつけられるのは、精神的に病んでしまうレベルなのではないかとすら、私は感じたのだ。
「あら? あまりいい返事ではないわね?」
「そもそもお母様は優くんを堕とせると思ってるの?」
「できるわよ? だって、ママは淫夢魔であり、吸血鬼でもあるんだから」
「テクニックでどうとでもなるってこと?」
「違うわよ。眷属の上書きをしちゃうってこと」
「———————!?」
え? 今、何て言った?
眷属の上書き?
それはどういうこと!?
「あら? もしかして、理解できていないのかしら?」
私はこれまで「眷属の上書き」なるものを聞いたことすらなかったのだから、理解できなくて当然だ。
「眷属ってのはね、上位権限があれば、上書きをすることが可能なの。だから、彼と激しい一夜を迎えて、最後に眷属の契約を結べば、千尋ちゃんの契約よりもママの契約が優先されて、書き換えることができるのよ」
「そ、そんなことって………」
「あら? 冗談だと思ってるの? んふふ。冗談じゃないわよ?」
そう言って、お母様は優一さんの股間を手でさすり始める。
優一さんが苦悶の表情を浮かべる。
そして、私や麻友は気づく。
優一さんの匂いが増えていることに————。
「さて、このまま極めつけで、堕としちゃうわね♡」
お母様は優一さんをそのまま抱きしめるように自分の傍に近づけた。
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