第143話 瞬時の攻防。私は試験体。

【お前が優一とかいうオスとの出会いを運命的だと言っていたのを聞いた時には、笑い転げそうになったぜ】


 明らかにバカにされている。

 何だか、腹立たしさが止まらない。あー、許せない。


「何がおかしいのよ?」

【だって、そうだろう? お前そのものが千代さんの研究材料にされていたというのによ】

「何を言っているのよ!」


 そうだ。そんなはずがあるわけがない。

 さすがに今の冒涜的なメッセージに腹を立てずにはいられない。

 許せる許せないの問題ではない。

 本能的に、あの減らず口をぶっ潰したい。


「そもそもお母様が私を利用しているって言っても、私はお母様に最近会ってないのよ?」

【会っていなくとも、お前を利用することは可能なんだよ】

「いや、マジで意味が分からないんだけど……」

【そもそも疑問には思わなかったのか? お前らがあんなにもエッチをしているにもかかわらずどうして、孕まないのか? と】

「いや、普通にサラッと言われると恥ずかしさが込み上げてくるんだけど……。でも、私たちはきちんとゴムも…………」

【おい、普通に付けてない方が多いだろうが……】


 うん。そうだね……。

 だって、その方が、優一さんを直に感じれるし、それに熱いものが直接流し込まれると、何とも言えない気持ちよさに、子宮が疼いちゃって……。

 て、そういえば、それほどまでにしてもらえているのに、バッチリ危険日を回避しているじゃないか!


【まさか、危険日をきちんと回避しているとか思ってるんじゃないだろうな?】

「…………。なぜ、バレた……」

【いや、普通にバレるよ! この淫乱メスめ!】

「ちょ、ちょっと!? さすがに怒るわよ!」

【おいおい。さすがに図星を突かれて起こるとか、恥ずかしくないのか?】

「ここで私と優くんのエッチのことを話される方が恥ずかしいわよ!」

【恥ずかしいエッチしてるって自覚はあるんだな】


 あるわよ! 認めたくないけれど、いつもメスにさせられて、本能的に子孫を残したいとか体が疼いてるのを分かってるわよ!

 とはいえ、そんなの恥ずかしくて言えるわけないでしょ!? 認めるわけないでしょ!?


【話は戻すが、あれだけのエッチをして、子どもが宿されないということは、何を意味しているかということに気づくべきじゃないか?】

「まさか、物質転移?」

【ご名答。優一の体液には、力を数千倍にまで引き出せる精気が宿されている。だから、その精気を使った精力カンフル剤を作ってしまえば、俺たちの力は最強に慣れるってことなんだよ】

「だから、優くんを攫ったのね!」

【それも正解。今までは、物質転移を行っていたが、そこには不純物が混ざってたんだよ】

「不純物?」

【お前の愛液だよ】


 ぶぼばっ!?

 私は恥ずかしさマックスで顔を真っ赤にしながら、吹き出した。

 優一さんの精液に私の愛液が混ざっていたから、ダメだったとか……。

 何だか、それって悲しい……。


「私の体液は不要だと!?」

【うーん。厳密に言うと不要ではない。お前も私たちにとっては必要不可欠なものだからな】

「何だか、必要とされることは嬉しいけれど、その相手が過激派ってのが嫌なんだけど……」

【まあ、そういうな。お前の愛液も血液も俺たちの研究にとっては最高の逸品を作るために必要不可欠な材料だからな】

「優くんのは精力剤になるとして、私の血液は何になるのかしらね……?」

【残念ながら、今はそれを言う必要はないな……。実際に目で見た方が早いだろうからな】


 そういうと、一馬はもう一本の注射器を取り出す。

 それを素早く首筋にプシュッと指すと、中の液体が注ぎ込まれる。

 と、同時に私は嫌悪感と同時に、恐怖を覚える。

 体の震えが止まらなくなり、そして動けなくなった。


 —————あ、これ、ダメな奴だ。


 私がそう思った瞬間に、強い衝撃とともに視界は闇に落ちた。




 体に痛みを感じて、私は目が覚める。

 そこは病室のような天井だった。

 無機質。何の飾り気のないただただ寂しいだけの天井だ。


「な、何をやっているの!?」


 私は痛みの原因が腕であることに気づき、そこにいる女性に声を荒げる。

 眼鏡をかけた大人しそうな女性は、注射器で私の血液を抜き取ると、


「何って……。体調が悪くなられて、ここに運ばれてこられたのに、何ですか……。その言い草は……」

「体調が悪くなって?」

「ええ。運ばれてきたときは全身がボロボロで顔色が真っ青でしたよ」

「わ、私にはその記憶がない……」

「まあ、単なる脳震盪のようですから、記憶がないのは当然だと思います……。それよりも何か食べられますか?」


 看護婦はそそくさと先ほどの抜き取った血液を別の容器に移し替えると、特殊な保管用ボックスに入れて、カギをロックする。


「その血液は……?」

「体調が悪かったのですから、血液検査をします」

「検査ですか……?」

「ええ、検査です。で、何か食べるものは必要ですか?」

「あ、はい……。では普通に食事をいただきます」


 私がそう答えると、看護婦はPHSのボタンを5~6回入力する。

 すると、ピピッと電子音が鳴り、引き出しのロックが解除され、食事が出てくる。

 うーん。どういう仕組みになっているんだか……。

 謎が深まるばかりなんだけど……。


「まずはその食事を取って、ゆっくりと静養をしてください。今は体力の回復が大切ですから。あ、あと、今後も何度か血液検査を行いますので、その時はまたお声をお掛けしますね」


 そう言うと、看護婦は何事もなかったかのように部屋から出て行った。

 一人残された私は、あまりの静けさに空気の音でも聞こえるのではないかというほどで驚いた。

 そして、目の前に出された食事に手を付け始めた。


「うん……。あんまり美味しくないわね……」


 まさに病院食そのものだった—————。

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