第39話 少女は密かに楽しみにしていた。

 部屋を見渡すと、ボクらにはもったいないくらいの広さの部屋がそこにはあった。

 大きな部屋が2つとその奥にはテラス越しに外を望める寝室。近くにはシャワー付きの大きなジャグジーバスまでがある。

 果たして、この部屋を利用する人って、どういった人なのだろうか……。

 どこかの企業の社長とか、それとも、どこぞの国の王室なのだろうか……。

 ボクは一般家庭の出身だから、正直なところ、この部屋の広さにもったいなさすら感じるほどだ。


「それにしても、広いですね」

「本当ですね。ちょっとしたパーティーくらい開けそうなくらいですね」

「あ、外国映画でもありますよね。友人・知人を集めて、立食パーティーをしながら、景色を堪能する、なんて使い方ですよね」

「ええ、全くそれです。まあ、2日間は二人で使うんですけどね」


 ボクは思わず照れてしまいそうになる。

 それにしても、本当にこの部屋を麻友はボクにくれてよかったのだろうか……。


「麻友には感謝しないとだめですね。きっとあの子のことですから、私たちの仲が進展していないのが不安で、助け舟を優一さんに出したのかもしれませんが……」


 ううっ……。鋭い推察力だ。

 まあ、ボクが彼女に相談に乗ってもらったというところが、ことの発端なのだが、そこはさすがに彼女には言いにくい。


「もしかすると、彼女は夏の思い出として、優一さんとここで過ごそうと思っていたのではありませんかね?」

「ええっ!? ボクとですか?」

「はい。ここで二人っきりで、イチャイチャして、濃厚で熱い優一さんのミルクを夜な夜なしっぽりと……」

「まだ、午前中なんですから、そういう妄想はやめましょうよ」

「あら、私ったらいけませんね。まあ、そんなことさせるつもりはないですよ。だって、優一さんは私の恋人なんですから。彼女の好きなようにはさせません」

「あはは………」

「とにかく、この服装のまま出かけるのもいいですが、さっき受付で聞いたところでは、クローゼットのなかにある服も好きに使っていいそうですよ」

「ええっ!? 何ですか!? そのサービスは……」

「どうやら、そういうサービスみたいです」

「至れり尽くせりだね……」

「そもそもロイヤルスイートなんで、そういうものだと割り切った方がいいですよ。あ、もちろん、ルームサービスで頼める軽食とか飲み物も基本的には無料ですので」

「ええっ!? じゃあ、さっきリビングのテーブルにあったメニューっぽいものは……」

「ああ、あれが頼めるサービス一覧になりますよ。他にも指圧マッサージとか、あ、これなんか私してみたいですね……。オイルマッサージとか」


 お、オイルマッサージだと!?

 それって、アロマキャンドルでリラックスできるようにした部屋で、千尋さんの背中や太ももにいい香りのするアロマオイルを塗って、揉むというあれか!?

 て、なんか、卑猥な考えを持ってしまったような気がする。

 すると、千尋さんはボクの顔を覗き込むようにして、


「これは、夕方に頼みましょうかね……。やってるところをぜひとも見てくださいね。マッサージ後の一杯を濃厚にするいい手段かもしれませんし」

「……はひっ……」


 千尋さん!? 瞳が濡れてていやらしいです! エロティックです!

 あと、ふふっと微笑みながら、ボクの股間に一瞬視線を送るのもやめてください!


「まあ、それはということで、これからはどうしますか?」


 ボクはスマートフォンを取り出して、天気を確認する。

 今日、明日ともに快晴だ。降水確率はともに0%とということだ。


「天気は明日もいいみたいなんで、明日は朝から一緒に海に行きませんか?」

「そうですね。それでいいと思います。じゃあ、今日はどうします?」

「うーん。そういえば、さっきセバスチャンが併設しているモールがあると言ってましたよね?」

「ええ、そうですね。なんでも、かなりたくさんの種類のお店があるそうですよ。ジャンルも日本のものだけでなく、北米やヨーロッパ、はたまた東南アジアといった地域のお店もあるそうです」

「それってなんだかすごいな……」

「ええ、どうやら、沖縄の国際通りを上回る通りを作りたかったようです」

「国際通りよりもすごいというのは、コンセプトがあまりにも壮大すぎますね」

「でも、逆に楽しめそうではありませんか?」

「そうですね! 今からすでに楽しみになってきましたよ。でも、よくそんな情報を持ってたんですね」

「え? あ、こ、これは……」


 彼女はボクの指摘に、もじもじして、少し恥ずかしがる。


「優一さんに今回の旅行を提案してもらったときに嬉しくて、たくさん調べちゃいました……」

「あはは! それは凄いですね」

「はい。もう、スマートフォンに穴が開いちゃいそうなくらい見てました」


 ボクはその様子をふっと想像してしまう。

 ワクワクしながら、スマートフォンの情報に一喜一憂する千尋さん。

 いや、十分可愛い。

 誰ですか!? ボクみたいな童貞の前に、こんな可愛い生き物を連れてきたのは……。

 思わず抱きしめてしまいたくなるが、ボクはぐっとこらえて、


「じゃあ、出かける用の服でも見てみましょうか。ボクに似合うのあるかなぁ……」

「あ、じゃあ、私がコーディネートしてみていいですか?」


 彼女はパァッと晴れやかな表情に変わると、ボクの手を引いて、クローゼットの部屋へと連れて行くのであった。

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