第40話 少女は少年を独占したい。

 ホテルからの専用通路を抜けると、そこはもう別世界のようだった。

 アウトレットモールといった雰囲気ではなく、むしろ、そのモールそのものが街のような様相であった。

 とはいえ、観光名所という感じでもありつつ、微妙に生活感も感じさせる独特な景観。

 うーん。これはこれで何だか凄いな。

 買い物に来た! というよりも、観光地に来たという感じがする。


「これって人工的に作られたはずなんですけど、そんな感じに見えませんよね?」


 千尋さんも同じ気持ちを持っていたようで、驚きの声を上げる。

 ボクらはすでにクローゼットにあった膨大な貸衣装?を着込んで、モールという名のへと繰り出している。

 ボクはベージュの綿パンに黒を基調としたデザインTシャツを着て、その上にトミーヒルフィガーの白いパーカーをアウターとして羽織っている。

 もう少し、イケイケな感じ(千尋さん曰く)にしたかったそうだが、ボクは自分の存在が確実に服に負けてしまいそうなので、これに落ち着いたのだが、金額をみると十分に目が飛び出してしまいそうな金額だったことだけは伏せておこう。

 彼女はというと、白のショートパンツからすらりと絹のような白いおみ足が伸び、ストライブ柄のオフショルダートップスを着ている。プラジャーの紐が見えるが、これは見せれるタイプのデザインのものに変えたとのことで、何が違うのかわからないが、本人は「このデザインが好き」と言っているので、それはそれで構わないとボクも納得している。一般人が多い場所で、こんなにも肌の露出をさせると、何だか、目立つような気がするので、そこがボクにとっては気が気でない。

 そして、肩から財布やスマートフォンを入れるためのショルダーバッグをかけている。これもショルダー部分のベルトは革の仕様になっているが、バッグそのものは巾着のようなデザインになっていて、布製の部分がブラックトーンのもので、そこの部分はブラウンの革が使われている。これまたオシャレな仕様だ。

 こうやって見てみると、彼女のコーディネートのセンスはさすがといったところだ。まあ、女の子はそういうことに敏感なのかもしれないけれど、ボクのようなそういったものに対して、これまで興味関心すら持たなかった男からすれば、こうやって見てみると、彼女本来の持つ可愛らしさを引き立たせるために何が必要か、というのものが見せつけられているような気がする。

 これ、絶対にボクが横に歩いていても、彼女ばかりが目立つのではないだろうか……。

 ボクは本当に不釣り合いな状態ではないだろうか……。そんな心配ばかりしてしまう。


「どうしたんですか? そんな浮かない顔して……。せっかく、私と一緒の二人だけでゆっくりとデートを楽しめるというのに、そんな顔をされたら、私も寂しく思っちゃいますよ?」

「あ、いや、ごめんなさい! そんなつもりは全くないんです! 本当に……」

「じゃあ、どうしたんですか?」

「いや、ボクが千尋さんの横にいても――――」

「良いに決まってるじゃないですか。そんなの当然のことです」


 そういうと、彼女はボクの手を取る。指を絡めるように手をつなぐ。

 すると、千尋さんはふんわりと微笑み、


「こういうの、恋人繋ぎっていうんだそうですね。何だか、しっかりと指を絡めて、逃げられないようにしているので、不自由がありませんけれども、お互いがお互いを拘束しているって考えると何だか、嬉しいかもしれませんね」


 え? そこが嬉しい観点なの!?


「周りの目が気になるのは、まだまだ優一さんに自信がないからですよ。私にとっては優一さんは恋人ですし、私は優一さんの隣にいたいんです。だから、不釣り合いだとか思わないでくださいね」


 そういって、ボクの手にきゅっと力を込めてくる。とはいえ、そこまで握力が強くないのか、痛くはない。むしろ、その行為そのものが可愛くさえ思う。

 そして、彼女はさらに大胆な行動に出てくる。


「えいっ♡」


 むぎゅっ♡

 どうやら、彼女は大胆な行動がお好きなようだ。てか、周囲の視線のことを気にしていないというよりも、むしろ意識させてやろうという気満々のように思える。

 彼女は手を握ったまま、ボクの腕に体を寄せた。

 当然、彼女のお胸にボクの腕は挟まれる。

 ああ、挟めるほどのお胸があるなんて………。

 それに、この感触は普通のブラジャーじゃない!? 肩からのぞくのは、普通のブラジャーではなく、紐のようなものが見えている。もしかして、これって水着タイプのもの?

 てことは、お胸の触感がダイレクトに来ているのはそのためなのか!?

 この柔らかさはやばい! 耐えろ、ボクの精神! 耐えろ、ボクの男性ホルモン!!

 と、いかんいかん。こんなところにトリップしている場合じゃなかった。

 今の行動は周囲の男どもにとっては重傷もいいところだ。思わず目に入ってしまった童貞たちが、膝ごと地面に崩れ落ちそうになっている……。

 いや、そこまで悔しがることか……!?

 そりゃ、まあ確かにボクの横にいるのは、高校でも清楚可憐で有名な美少女だ。

 ボクという恋人がいるということをわかりながらも、彼女に対するアタックは止まらないらしいから、どうもボクという存在を軽んじられているような気がしてならない。


「こ、これは、目立ちますよ!?」

「いいんですよ~! むしろ、目立っちゃいましょう。そうして、優一さんの魅力をみんなに知ってもらわないと」


 えー。別にボクは周囲の男性陣にケンカを売りに来たわけじゃないんだけどなぁ……。

 できれば、大人しく千尋さんと一緒に、買い物デートを楽しみたいとすら思っていたりするのだけれど……。

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