第41話 ボクは少女の視線に釘付けにされた。
さてと、まずは何をしよう……。
いや、エッチなことではなく、普通にデートというものを、だ。
というのも、ボクはこれまで彼女というものを作ったことがない。だから、デートというものがどうすればいいのか、あまりわかっていない。
せいぜい、分かっていることといえば、姉からの供物であるエロゲーで習得した知識くらいなものだ。
とはいえ、このエロゲーのデートというものが果たして本当に正しいのかどうかもわからない。
なぜならば、最終的にはどのパターンであっても、彼女と一緒にホテルに直行して結ばれるからだ。まあ、たまに不良モブっぽい連中に攫われるというイベントが起きることもあるが、そういうNTR系は自分の守備範囲外なので、基本的にそのルートをクリアしたことはないのだ。
だからこそ、果たして、こんな可愛い彼女と一緒に何をすればいいのかわからない。
しかも、彼女はというと、恋人繋ぎのままボクの左腕を独占中だ。
胸が……胸に腕が挟まれている!?
落ち着け、ボクの相棒よ……。これは単なるデートイベントだ。
決して、このあと、そのままホテルでヤっちゃえるなんて思ってはいけない……。
て、あれ? 今日ってこの後、ボクたちは一緒のホテルに泊まるんだっけ……。
しかも、ベッドが部屋に一つしかいなかったんだよなぁ……。
あれってダブルベッドってことだよね……。ウチでも同じようなものだし……。
と、なると一緒に寝る……。あれ? ヤっちゃえるじゃん……。
て、ノォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!
ボクはなんて妄想領域に突入しているんだ!!
彼女のこの柔らかおっぱいだけでこんなに妄想が膨らんでいるなんて、ただの変態じゃないのか!?
夏休みは一度、山に引きこもって、お寺で修行僧として精神を鍛えなおした方がいいのかもしれない……。
ボクは本気でそんなことを思った。
「あら? もしかして、興奮してます?」
本当にボクの彼女は意地悪だ。
興奮させているのは、千尋さん自身だというのに……。お気楽だなぁ……。
「ど、どうして?」
「だって、香りが凄いんですもの♡」
そこで美味しそうなものを見た時のようなペロリと舌で唇を濡らす。
今日は千尋さんの唇にグロス入りのリップがつけられていて、なぜかそれが妖艶に輝いたようにボクは感じた。
あれ? ボク、捕食対象なのかな?
「あ、でも、今日は夜まで我慢しますから安心してください! もっと濃厚に練り上げてもらいます!」
「あ、はははは……。まあ、朝に電車で一発飲まれましたからね」
「まあ、あれはご愛敬ってことで」
どこの世界に、精飲をご愛敬で済ませれる人がいるんだろう……。まあ、ここにいるんですけれどね……。
「でも、やっぱりこうして、柔らかさを味わえるのは、優一さんも嬉しいみたいですね」
「うーん。そこは否定できないんですけれど、素直には認めたくないというか……」
「まあ、体は素直ですけどね」
「いや、普通に竿役みたいなセリフを真昼間からいうのは止めてください」
「あら? そう受け取られたらごめんなさい。でも、こうやって優一さんの温もりを感じながら、一緒にデートって何だか嬉しいです」
「それはボクも素直に認めます」
そう。ボクらは付き合い始めてから、すでに2か月ほど経過した。
が、悲しいかな、中間考査、期末考査と立て続けに試験が行われ、進学校ということもあって課題が多く、それほど余裕のある日々を過ごせたということはなかった。
そのためもあって、せいぜい、登下校でご一緒して、帰路では夕食の買い出しを一緒に行うということくらいだった。
まあ、土日は一緒に過ごすことはあったものの、彼女と一緒にリビングでゴロゴロしたり、ネットフリックスで映画を見たり、といった感じの日々だった。
これといって、デートらしいことは一切していない。
「実は、私、デートするときにしたいことがあったんです」
「あ、そうなんですか? ボクはデートっていうのがよくわからなくて……」
「それは私も一緒ですよ! 私も優一さんと付き合ったのが初めてなんですから」
「そ、そうだったんですか!?」
「あれ? 私のそんな尻軽女に見えてたんですか?」
「いいえ! そんなこと一切思ってません!」
「まあ、私も冗談のつもりで言いましたけどね」
「実際、千尋さんの噂はいろいろと聞いていたんです。学校の中でもカッコいいと有名な人から告白されたとか、どこかの御曹司から告白されたとか……。だから、そういうお付き合いってのも今まであったのかなって思っていたんです」
「そうだったんですね。でも、安心してください」
「え?」
彼女は腕を抱きしめつつ、ボクの耳元に顔を近づけ、
「私は入試のあの日に出会って以来、ずっと優一さん一途なんですから……」
耳元で囁かれて、ボクはどきりとする。
こんなことをこんな可愛い彼女に言われて、気持ちが高まらないなんて人はいないはずだ。
ボクはドキドキしながら、そっと彼女の方に顔を向ける。
そこには少し頬を赤らめて恥ずかしそうに微笑む彼女がいた。
ボクの心は本当に彼女に奪われてしまったようだ。
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